告白のように饒舌水中花 丈子

沈黙もまた意思表示
水中花の黙はときに饒舌な告白となる

すっきりと割れる割箸緑さす 丈子

木陰で弁当をつかう
割箸がすっきりときれいに割れた
なんとも良い気分、気分もすっきり

一言を呑み込みながら髪洗う 丈子

腑に落ちないあのの一言
悔しさを呑み込みながら髪を洗う

日雷藁打石の通し土間 丈子

おりからの夕立前の日雷
慌てて飛び込んだ民俗資料館に
昔を物語る藁打石が通し土間にあった

湯治場の外の憚り月涼し 丈子

湯治の浴場は外湯で
便所も外にある
用を足していたら小窓から月が見えた

しあわせはいつもひらがなさくらんぼ 丈子

ひらがなに包まれる幸せは
いつも百パーセント
さくらんぼは食べて幸せ　貰ってうれしい

尺蠖のどこまで行くもまだ途中 丈子

ひたすら進んでいるがまだまだ途中
命ある限り道はまだ半ば

青あらし山のまるごと磨崖仏 丈子

夏の激しい南風を受けて

山を背負うような大きな瞑目の

摩崖仏に遭遇した

熱帯夜三年坂に二度こける 丈子

　京都　三年坂

京都清水寺近くの三年坂、ここで転ぶと三年の間に死ぬと言われる
熱帯夜の寝苦しさで見た夢である

白夜の被災地結界の入り乱る 丈子

毎年、地震・水害・崖崩れなどの
天災による被害が夥しい
被災地は夜を徹しての救助活動
生と死の結界が入り乱れていて声を呑む

レコードの雑音汗まみれの青春 丈子

CDもラジカセもなかった青春　

雑音の中に汗まみれ
それでも未来は希望に満ちていた

青とかげ恐竜少食進化論 丈子

　恐竜の進化の容

恐竜の絶滅は巨大隕石の衝突によるとか
どっこいその遺伝子は脈々と生きている
青蜥蜴は小食という進化を手に入れた

炎天の芯に一撃測量士 丈子

炎天下で働く職業は多いが
測量士も同じだ
測量杭の誤差は許されない
しっかりと芯に打ち下ろす木槌の音が熱い

梅雨寒や腑分けみたいな形見分け 丈子

　形見分け

形見分を選ぶ作業は腑分けのようだ
外はしとしとと雨　梅雨寒が身に沁みる

断捨離は先ずはしがらみなめくじり 丈子

何にも動じないマイペースの蝸牛
断捨離に邪魔な柵はひとつもない