やはらかな風にほどかれ蕗の薹 2016-02-29 | 春 やはらかな風にほどかれ蕗の薹 春日をあびてやわらかな風にほころんで 蕗の薹がほころんできた 春の味覚だ 毎年同じところに芽をだすのが律儀である
婿入りの決め手三杯の浅利汁 2016-02-28 | 春 婿入りの決め手三杯の浅利汁 浅利が好きだ 深川飯は機会があったらまず逃さない 浅利がはみ出すような浅利汁はお代りをする 婿入りの返事に窮していても 3杯もお変わりしたら頷くほかはないだろう
確と走り根残雪の奥ノ院 2016-02-27 | 春 確(しか)と走り根残雪の奥ノ院 3年ほど前の今義路の季節 日光の奥の院へ行ったことがある 途中から道が荒れていたが 古い確りとした走り根が 残雪のなかに埋もれながらもあって たよりになった
春の夢犬と添ひ寝の浮浪人 2016-02-26 | 春 春の夢犬と添ひ寝の浮浪人 ここのところの寒気は真冬のようだ 三寒四温というが寒さの方が勢いがある 駅の近くに初老のホームレスがいる 犬が一緒に暮らしていて 寝ている時はお互いの体温を交換しているようだ 春の夢 犬も浮浪人も見ているのかもしれない
卒業を刻む手練れの肥後守 2016-02-25 | 春 卒業を刻む手練れの肥後守 木製の机に椅子 私の学生時代はこれが普通だった 鉛筆は小学校高学年からは自分で削った 「肥後守」を上手に使いこなす同級生は尊敬された 卒業期 机も椅子も傷だらけになるのは黙認の記憶がある
今生を空にあずけて石鹸玉 2016-02-24 | 春 今生を空にあずけて石鹸玉 シャボン玉の命ははかなく美しい シャボン玉をみる瞳はいつも上を向いている シャボン玉は生まれた時から空にいる 消える時も空のなかだ いのちの値は時間では測れない 空にうまれ空に死す 空を「クウ」と読んだらもう悟りの境地になるようだ
春の彩そのとりどりに筆足らず 2016-02-23 | 春 春の彩そのとりどりに筆足らず 春の光はまばゆいばかり その光の中にたくさんの色 用意の絵筆の足りるはずもない 私だけの春景色 今日だけの春の表情
ものの芽の風を切りたる身の尖り 2016-02-22 | 春 ものの芽の風を切りたる身の尖り ものの芽とは 草木にかぎらず命あるものすべての息吹のようだ 北風が南からの風に変わるまでの間は ものの芽は忍耐強い 見をとがらせて風に立ち向かう
瞑れば落花の悲鳴亀の鳴く 2016-02-21 | 春 瞑れば落花の悲鳴亀の鳴く 春はなにかと賑やかである 草木の息吹に交じって風のさまざまな音 空には雷 海には春の怒涛もある 眼を閉じると 花々がかわるがわる主の座を争うかのように 咲き変わる そんな悲鳴に交じって亀の鳴き声が聞こえたような
いかり肩みななで肩に山笑ふ 2016-02-20 | 春 いかり肩みななで肩に山笑ふ 山の雪もなくなると 厳しかった表情は消えて 山は一斉に芽吹いている ものの芽といって 植物の芽だけではなく 生けるものすべての芽が萌える時期説である すべての山は丸もを帯びたなで肩だ
風紋の城郭のごと桜貝 2016-02-19 | 春 風紋の城郭のごと桜貝 春の海は眩しく静かだ ときおりの風は気まぐれで四方八方から吹いてくる 砂はその風に舞いながら見事な風紋をみせてくれたりもする 風が収まると 風紋はとりでのようだったりして 誂えたような桜貝が顔を見せていることもある
蜃気楼そこの確かな探し物 2016-02-18 | 春 蜃気楼そこの確かな探し物 富山県に月に何度もでかけることがあった 日本海の幸を堪能したり 蛍烏賊の神秘の様を夜の海で体験もした 立山の雪壁にも触れた たくさんの温泉も訪ねたが 蜃気楼を長い時間みたことは衝撃に近いものだった 始めてなのに何故か懐かしかったことは忘れない
牛蛙こんなに生きて不足顔 2016-02-16 | 春 牛蛙こんなに生きて不足顔 老人大国ニッポン 老害の充満するこの国に未来はない 薬漬になりながらもまだまだ長らえる 長命という病気にかかって治らない この牛蛙の面容は自分かもしれぬ
分校の複式授業蝌蚪の瓶 2016-02-15 | 入選句 分校の複式授業蝌蚪の瓶 昭和47年 長女の入学した小学校は北海道虻田郡洞爺村字大原の 洞爺小学校大原分校 生徒数11人の複式授業だった 理科、図工、音楽、体育などは全学年まとめての授業だった 窓から残雪の遠い山並みをみていて思い出されたのはなぜだろう 入選 2016/3/14 下野新聞 速水峰邨選