竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

たちまちにあられ過ぎゆく風邪ごもり 桂信子

2020-11-30 | 今日の季語


たちまちにあられ過ぎゆく風邪ごもり 桂信子

風邪を病んで臥せっている作者の姿が浮かぶ
屋根をうつあられにはっと我にかえったと思ったら
すぐに止んだという景なのだが
風邪ごもりの表意に脱帽するほかはない
(小林たけし)


【風邪】 かぜ
◇「感冒」(かんぼう) ◇「流行風邪」(はやりかぜ) ◇「流感」 ◇「風邪声」 ◇「鼻風邪」 ◇「風邪薬」 ◇「風邪心地」 ◇「風邪の神」 ◇「インフルエンザ」
鼻水、喉の痛みを伴う発熱、咳の症状。ウィルス性の流行性感冒も含む。投薬での治療が主だが、身体を温め十分な休養、睡眠が効果的である。

例句 作者

お粗末な髭そる風邪の米壽かな 佐藤軒三
きらきらと色街だった風邪薬 徳才子青良
くちなしの日射し届かぬ流行風邪 枝広和恵
はやり風邪上着下着と骨で立つ 村井和一
ひとごゑのなかのひと日の風邪ごこち 桂信子
フランスへ行きたい風邪の鼻音である 原子公平
モジリアニから鼻風邪をうつされる 細井啓司
今日だけは自殺をやめて風邪をひこう 横須賀洋子
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鯛焼やいつか極道身を離れ 五所平之助

2020-11-29 | 今日の季語


鯛焼やいつか極道身を離れ 五所平之助

鯛焼と極道
なんとも不釣り合いな取り合わせ
極道が鯛焼に完全に取り込まれている
ウィットに富んだ佳作だ
(小林たけし)


【鯛焼】 たいやき(タヒ・・)
◇「鯛焼屋」 ◇「今川焼」
溶いた小麦粉を鯛形の型に流し込み、餡を包み焼きしたもの。

例句 作者

鯛やきの鰭よく焦げて目出度さよ 水原秋櫻子
鯛焼のガスの焔揃ふ海の色 橋本美代子
鯛焼のまづ尾の餡をたしかめし 能村登四郎
鯛焼の腹熱く鰭香ばしく 二村蓼紅
捨てられぬ夢鯛焼の尾から食い 佐藤七重
歩いて帰る私鯛焼屋へも並ぶ 五十嵐研三
鯛焼の頬豊かなる通学路 能城檀
鯛焼を掴み花嫁見に立てる 佐藤晏行
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旅人と我名よばれん初しぐれ 芭蕉

2020-11-27 | 今日の季語


旅人と我名よばれん初しぐれ 芭蕉

おりからの時雨にとまどっている芭蕉に
村人のあたたかなやさしい声
「旅人よ すこし休んでいらっしゃい 一服の間にあがるでしょう」
こんなもてなしが身に染みてありがたい
(小林たけし)


【初時雨】 はつしぐれ
冬の初めに降る時雨のこと。時雨とは、もともと晩秋から初冬にかけて少時間降る雨のことだが、「初」を冠することでいよいよ時雨の季節に入ったとの感慨を強くする。さびしさとともに、一すじの華やぎも詠いこめられている。

例句 作者

厨の灯消すやほどなき初時雨 渡辺千枝子
はつしぐれ垣つくろひしばかりかな 久保田万太郎
埋火の灰ならしたる初時雨 清水基吉
釣りあげし鮠に水の香初しぐれ 飯田龍太
はつしぐれ大根おろしに甘味かな 大野林火
つはぶきのまがねたたかむ初時雨 安東次男
いづこかに亀もゐるなる初しぐれ 北崎珍漢




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それぞれの躰持ち寄り日向ぼこ 石倉夏生

2020-11-26 | 今日の季語


それぞれの躰持ち寄り日向ぼこ 石倉夏生

それぞれの持ち寄るのは躰なのだが
来し方、行く末。そして境遇
各人の思い
みんな相違する事情をかかえている
晩節に語らず々温和な顔で日向ぼこの景が少しさびしい
(小林たけし)



【日向ぼこ】 ひなたぼこ
◇「日向ぼこり」 ◇「日向ぼっこ」
冬季の日光浴。日の短い冬に日当たりのよいところで暖をとることをいう。

例句 作者

たましひを並べてみている日向ぼこ 松下けん
どの顔も一切空の日向ぼこ 伊勢鏡一郎
わが死後を思うは自由日向ぼこ 寺門良子
イラクより帰りし軍艦日向ぼこ 岡本日出男
メロンパンほどに仕上がる日向ぼこ 本杉康寿
一人には一人の世界日向ぼこ 菊地章子
一炊の夢の目覚めや日向ぼこ 石井国夫
今日のこと曖昧にして日向ぼこ 岸本砂郷
何となく老いは勝ち組日向ぼこ 宮田頼行
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河豚食うて佛陀の巨体見にゆかん 飯田龍太

2020-11-24 | 今日の季語


河豚食うて佛陀の巨体見にゆかん 飯田龍太

殺生と信仰
鍋を食って温まって寒風の中へ
句意には既知もある
龍太俳句には珍しい生活感のある日常も作品だ
(小林たけし)


【河豚汁】 ふぐじる
◇「ふぐと汁」 ◇「ふぐの宿」 ◇「てっちり」 ◇「河豚ちり」 ◇「てっさ」 ◇「河豚鍋」(ふぐなべ)
河豚には猛毒が含まれるが、これを除けばほとんどが食べられる。冬を代表する高級食材であるる。河豚を「鉄砲」呼んだことから、ちり鍋にしたものを「てっちり」という。江戸初期からの調理方法とされる。

例句 作品

てのひらのいとしきいのち放ちふぐ 滝口みのる
ふぐ刺身絵皿となりて白光す 小林萬二郎
フグ釣れて戦艦ムツの忌の日なり 岩下四十雀
人事と思ひし河豚に中りたる 稲畑汀子
寒風に吊し干せる河豚の皮 鈴木恵美子
捨てし河豚小石を噛んでいたるなり 中村和弘
河豚入れて土鍋大きくふくらみぬ 石川利夫
河豚刺身(さし)のようにことばを置く日なり 安西篤
河豚喰らい背凭れのなき椅子に酔う 久保田凉衣
河豚宿は此許(ここ)よ此許よと灯りをり 阿波野青畝
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小雪の箸ひとひらの千枚漬 長谷川かな女

2020-11-22 | 今日の季語


小雪の箸ひとひらの千枚漬 長谷川かな女

小雪の箸
ひとひらの千枚漬
二行詩のような表意に納得
余計な言葉、説明はいっさいないのが良い
(小林たけし)


小雪(しょうせつ、せうせつ)初冬
【解説】
二十四節気の一つ。陰暦十月の節。陽暦では十一月二十二日頃にあたる。降雪が見られることもあるが、まだ大雪にはならない。


例句 作者

小雪や実の紅の葉におよび 鷹羽狩行
小雪のいただき以下を略す富士 細川洋子
海の音一日遠き小春かな 暁台
小雪の朱を極めたる実南天 富安風生
小雪やいよいよ白き竹の節 安部紀与子
小雪や月の夜干しの白野菜 細木芒角星
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かくれんぼ三つかぞえて冬となる 寺山修司

2020-11-21 | 今日の季語


かくれんぼ三つかぞえて冬となる 寺山修司


修司ならではの句といえようか
三つ数えている間に冬になった
しらぬまに季節、生活、環境が変わっている
その変容はみな怖いものばかり
とまどいと焦燥、悲哀までもが読み取れる
(小林たけし)


季語 冬
本格的な冬は一月二月でしょうが
十一月も終わる頃、気温も下がり、
野の草木の枯れが目立つようになります

冬単独を季語として読むことは
難しそうだ

例句 作者

*蝋燭のぢりぢり冬の吾亦紅 藤城一江
Uターンしてから冬の広がれり 山口木浦木
「冬の貨車は重い」機關士夜を徹す 鈴木六林男
いまごろになって恋する冬林檎 田付賢一
かくれんぼ三つかぞえて冬となる 寺山修司
くづれずにくづるるばかり冬薔薇 加藤瑠璃子
くらがりに歳月を負ふ冬帽子 石原八束
くらやみ坂おいはぎ坂も冬の貌 野木桃花
くりからもんもん冬の金魚は逆立ちに 穴井太
こいんろっかーのような冬西日 山本敏倖
ごつごつと父の歳すぎ冬の樅 和知喜八
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健忘症なれど物知り生身魂 たけし

2020-11-20 | 入選句



健忘症なれど物知り生身魂 たけし

朝日新聞 栃木俳壇 石倉夏生先生の選をいただきました

じじいじは何でも知っている
孫たちにこう思われていたこともあったが
最近は
大丈夫?
と怪訝な顔をされることもある

生身魂 賞味期限切れの老獪を認めるほかはない

川柳ぽくなってしまったが偽りのない心境だ

健忘症は精いっぱいの矜持、認知症とは言いたくない
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一茶忌や父を限りの小百姓 石田波郷

2020-11-19 | 今日の季語


一茶忌や父を限りの小百姓 石田波郷

ひなびた日本の原風景をこよなく愛した一茶
作者の前に広がる田園
この先祖から受け継いだ田園も父の代で終わる
しみじみと述懐する
(小林たけし)


【一茶忌】 いっさき
陰暦11月19日。俳人小林一茶の忌日。1827年没。享年65歳。俗語・方言を多用した作品により庶民的人気を得ている。『おらが春』『七番日記』等がある。

例句 作者

一茶忌やふかぶか掘りし葱の畝 安住 敦
焼栗の爆ぜて一茶忌近うせり 吉田鴻司
一茶忌を忘れずゐたる葛湯かな 森 澄雄
お手玉からこぼれる小豆一茶の忌 山崎冨美子
かけ違ふぼたん直すや一茶の忌 関和子
一茶忌やいつもの雀路地に来る 大友渓水
一茶忌や朝の蜘蛛の子見逃しぬ 岡林三枝子
一茶忌や窪みもどらぬ旅しとね 澁谷道
人生に紆余曲折のあり一茶の忌 関和子
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鬪はぬ安らぎがあり冬の蜂 丸茂ひろ子

2020-11-18 | 今日の季語


鬪はぬ安らぎがあり冬の蜂 丸茂ひろ子


冬蜂は闘わないと作者は断定している
生きることそのものが闘いというのだろう
人も同じだ
余生をおくる我らの安らぎはもう闘わないところにある
(小林たけし)

【冬の蜂】 ふゆのはち
◇「冬蜂」 ◇「凍蜂」
蜂は交尾後、雄は死んで、雌のみが越冬する。暖かな日差に誘われて、花などに来ているのを見ることもある。瘠せて弱々しく歩いている。それが冬の蜂である。


 例句 作者名

こときれる冬蜂ひとつまみの火薬 守谷茂泰
ふわふわの黄金であり冬の蜂 高野ムツオ
冬の蜂ころび無傷の空のこす 大中祥生
冬蜂に琥珀の日向ありにけり 守谷茂泰
冬蜂の死にどころなく歩きけり 村上鬼城
和讃額ひそみていたり冬の蜂 佐藤裟千子
欲望の芯のささくれ冬の蜂 田中亜美
白壁に冬蜂われらは印象派 足利屋篤
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煮凝は太古の呻き洩らしけり 杉田桂

2020-11-17 | 今日の季語


煮凝は太古の呻き洩らしけり 杉田桂

なんとも大仰なと思ったが
何億年もの歳月を経て進化してきた魚類である
生殺与奪の果て
骨の髄までしゃぶられる
呻きともまた歓喜
の雄たけびとも
(小林たけし)


【煮凝】 にこごり
◇「煮凍」(にこごり)
魚肉を細かくして、寒天やゼラチンを加え固めた料理。本来は寒気により魚などが煮汁とともに固まったものをいう。

例句 作品

とばつちりとは煮凝りのなかの氣泡 金子野生
にこごりは両性具有とよ他言すな 金原まさ子
別品の鯛の煮凝り鞆の浦 大田康夫
十分に大事にされたか煮凝 前田弘
煮こごりや魚の泪を閉ぢ込めて 岡本久一
煮凝に島のどんぞこゆうらゆら 松澤昭
煮凝に老いの繰り言聞き流す 田口青江

煮凝やいつも胸には風の音 石原八束
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炉びらきや雪中庵の霰酒 蕪村

2020-11-16 | 今日の季語


炉びらきや雪中庵の霰酒 蕪村

俳人服部雪中の庵を訪ねた蕪村の句
霰酒をふるまわれたのだろう
雪の夜何を語ったのか、絵になるような光景だ

(小林たけし)

霰酒とはあられ餅を、焼酎 (しょうちゅう) につけて干すことを数回繰り返してから、みりんの中に入れて密封・熟成させた酒。奈良の特産。みぞれ酒。《季 冬》「炉びらきや雪中庵の―/蕪村」



炉開(ろびらき)初冬
【子季語】
囲炉裡開く
【解説】
冬になってはじめて炉を使うこと。茶道では風炉の名残の茶会のあと、陰暦十月初旬の亥の日を選び風炉を閉じて炉を開く。

例句  作者

炉開きや左官老いゆく鬢の霜 芭蕉 「韻塞」

炉開きやまだ新宅のみなと紙 許六 「俳諧曾我」

炉びらきや雪中庵の霰酒 蕪村 「蕪村句集」

炉開に一日雇ふ大工かな 正岡子規 「子規句集」

名聞をうとみて大炉開きけり 日野草城 「花氷」

炉開けば遥かに春意あるに似たり 松本たかし 「野守」
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鰤起し月の転げる日本海 たけし

2020-11-15 | 入選句



鰤起し月の転げる日本海 たけし


第5回NHK誌上俳句大会(2020.11.02)

題詠 「本」部門 夏井いつき先生の選をいただきました



雪見吟行で新潟寺泊へ行った際の

ホテルから眺めた夜の日本海

波間に月が大きく揺れていました

冬期の月と風そして海を詠みたかったのですが

「鰤起こし」の季語を知り一句になりました
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荒うちわ子の正論の丁寧語 たけし

2020-11-14 | 入選句


荒うちわ子の正論の丁寧語 たけし



第5回NHK誌上俳句大会(2020.11.02)

掲句が岩岡中正先生、夏井いつき先生の選をいただいた

いずれも佳作で秀作には届かなかったが

6人の選者のうち2人の選をいただいたのは嬉しい



子供が生意気にも親に意見する

反論できない正論である

論旨に異論はないのだが何故か素直になれない

いつもと違う言葉遣いも気になる



手にした団扇の音が早く激しいのは何故だ
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窯出しの振り向くたびに花八手 花房八重子

2020-11-11 | 今日の季語


窯出しの振り向くたびに花八手 花房八重子

こおした句意も表現も平明な俳句に
出会うとこころが和んでくる
作者の心の高ぶりまで迫って感じられる
花八手の取り合わせはきっと実景だろうと思う
(小林たけし)

八手の花(やつでのはな)初冬
【子季語】
花八手、天狗の羽団扇
【解説】
ウコギ科の常緑低木。暖地に自生するが、庭木としても植えられる。初冬、小さくて細かい黄白色の花を鞠状にたくさんつける。一見地味な花だが天狗の団扇のような葉ともあいまって、力強さも感じられる。

例句 作者

たくましく八手は花に成にけり 尚白 「孤松」
花咲いて不調法なる八手かな 三津人 「発句題叢」
タンカーに糞神ありや花八つ手 河野輝暉
窯出しの振り向くたびに花八手 花房八重子

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