夏近し湖の色せる卓布かな 佐藤郁良
卓布はテーブルクロス、ベランダに置かれた丸いテーブルを覆っているのだろうか。気がつくとすっかり新緑の季節、日ごと音を立てて濃くなる若葉に、夏が来るなあ、とうれしくなるのは、毎年のことながら慌ただしい四月が過ぎて一息つく今時分だ。湖は海よりも、おおむね静けさに満ちており、その色はさまざまな表情を持っている。湖の色、と投げかけられて思い浮かぶのはいつか見た読み手それぞれの湖、木々の緑や空や風を映して波立つ水面か、山深く碧く眠る透明な水の耀きか。連休遠出しないから楽しみはベランダで飲む昼ビール、などと言っていてはこういう句は生まれないなあ、とちょっぴり反省。『星の呼吸』(2012)所収。(今井肖子)
【夏近し】 なつちかし
◇「近き夏」 ◇「夏隣」
夏を間近にした心の弾みがうかがわれる。行春にいて夏の隣るのを感じるこころである。夜の明けるのも早くなり、新緑の眩しさの近きを思わせる。
例句 作者
街川の薬臭かすか夏隣 永方裕子
盤石をぬく燈台や夏近し 原 石鼎
夏近し葱に水をやりしより 高浜虚子
夏近し雲取山に雲湧けば 轡田 進
樹上より子の脚二本夏隣 林 翔
夏近き吊手拭のそよぎかな 鳴雪