竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

次の間の灯で膳につく寒さかな   一茶

2016-11-09 | 一茶鑑賞
次の間の灯で膳につく寒さかな



一人旅の宿では、
部屋に灯りさえもつけてくれないので、
次の間からほのかにもれてくる灯りをたよりに膳に向かう。
何ともわびしいことだ。〔季語〕寒さ

寛政3年(1791年)、29歳の時、故郷に帰り、
翌年より36歳の年まで俳諧の修行のため
近畿・四国・九州を歴遊する。

うまさうな雪がふうはりふうはりと 一茶

2016-11-06 | 一茶鑑賞
うまさうな雪がふうはりふうはりと



空の上から、
うまそうなぼたん雪が、
ふうわりふうわりと降ってくることだ。〔季語〕雪

筆者鑑賞
むまさうな雪がふうわりふはりかな 『七番日記』
むまさうな雪がふうはりふうはりと『文政版一茶発句集』
うまさうな雪やふうはりふうはりと『随齋筆記』

一茶は平易な言葉で自分に正直な心情を詠んでいるのだが
何年もかけて推敲を怠らない

ひいき目に見てさへ寒きそぶりかな   一茶

2016-11-05 | 一茶鑑賞


ひいき目に見てさへ寒きそぶりかな

〔季語〕寒さ


意味・・どうひいき目に見ても、自分の姿は寒そうで
    みすぼらしい様子をしていることだ。
    でも今に見ていろ頑張るぞ。

    一茶の劣等感を詠んだ句です。しかしこの劣等
    感には不幸不運に耐えて力強く生きて行こうと
    いう強靭さ、雑草のように踏みつけられ、引き
    抜かれても、なおかつたくましく生きる精神が、
    この句の底に流れています。

 注・・寒きそぶり=たんに寒いというのでなく、
     みすぼらしさの意をふくんでいる

これがまあ終の栖か雪五尺   一茶

2016-11-04 | 一茶鑑賞
これがまあ終の栖か雪五尺




五尺も降り積もった雪に
うずもれたこのみすぼらしい家が、
自分の生涯を終える最後の住まいとなるのか。
何とわびしいことか。〔季語〕雪

つひの栖(終の住処)
意味:死ぬまで住むことになる最後の家のこと

50才で信濃の国(長野県)に帰った一茶は、
最後の家の主屋を全焼で失なってしまいます。
それからの一茶は、離れの土蔵に暮らすことになったそうです。
そして最期の時をその土蔵の中で迎えたと伝えられています。
<bioscientist8さん >


筆者鑑賞
一茶は終の住処を侘しいと感じていたのだろうか
人は一人で生まれて一人で死ぬ
晩節の一茶は来し方を振り返って
たくさんの出来事が襲っては消えていったころを思い
悟りの境地にいて恍惚としているように感じる

散るすすき寒くなるのが目に見ゆる   一茶

2016-11-03 | 一茶鑑賞
散るすすき寒くなるのが目に見ゆる



秋が深まり、日に日に散っていくすすきの穂。
それを見ると、
日ごとに寒くなってくるのが目に見えるようだ。〔季語〕すすき散る

一人旅の一茶には
この芒原は広大でその穂に荒ぶ風は冷たい
寒さが目にみえるとは一茶の心中でもある
芭蕉の旅とは根本的に相違している
一茶の旅は求道のようにさへ感じられる

露の世は露の世ながらさりながら  一茶

2016-11-02 | 一茶鑑賞
露の世は露の世ながらさりながら



この世は露のようにはかないものだと知ってはいても、
それでもやはりあきらめきれない。
この世がうらめしい。
(長女のさとが疱瘡で死んだときに詠んだ句)〔季語〕露

相次いで我が子を失った一茶の心中はいかばかり
下五の「さりながら」に万感をかんじぜずにはいられない

一人と帳面につく夜寒かな   一茶

2016-11-01 | 一茶鑑賞
一人と帳面につく夜寒かな



一人旅で安宿に泊まった。
一人旅は宿の者から胡散臭く見られるもの。
宿帳に「一人」と書かれて、
夜の寒さがいっそう身に沁みる。〔季語〕夜寒

江戸時代の庶民にとって旅は簡単に出来るものではなかったが、
農村では「伊勢参り」が夢で、
みんなで積み立てた金(伊勢講)で何人かの代表者が毎年行っていた。
信仰の色合いはあったが、遊びが目的だった。
江戸から歩いて12日だから道中の費用も大変である。
食事と宿泊料金を節約した。
安い宿(木賃宿)は一泊素泊まりで120文(1両は6000文)だった。
一茶が泊まった宿もその類(たぐい)だったのだろう。
「一人ですか?」と言う主人の問いかけが夜寒と共に、一茶の寂寥感を増す。
この句から、当時、一人旅は珍しかったことが分かる。

木曽山へ流れ込みけり天の川   一茶

2016-10-31 | 一茶鑑賞
木曽山へ流れ込みけり天の川




天空を流れる天の川は、
まるで木曽山に流れ込んでいるかのように見える。〔季語〕天の川

一茶の木曽路での旅吟だがその時代の空は
現代の何倍も澄み切っていたはずだろうから
天の川の川幅も広く大きかったと思われる
川下が木曽山にかかっていたのかも知れない

夜道を旅する一茶の孤独が際立ってくる

秋寒や行く先々は人の家   一茶

2016-10-30 | 一茶鑑賞


秋寒や行く先々は人の家

秋も深まり寒くなってきた。
しかし、私には住みつく家もなく、
行く先々はみな人の家で、
寂しさがいっそう増していく。〔季語〕秋寒

秋の深まり、旅の途中なのだろう
行けば行くほどに寂しさも深まっていく


秋寒し/秋小寒
秋の半ばを過ぎるころの寒さのこと。
特に朝夕に感じることが多い。
少し寒いという感じで本格的な寒さではない。
 
秋寒し には印象ふかい秀句が多い

日のにほひいただく秋の寒さかな  惟然 「菊の香」
秋寒し藤太が鏑ひびく時  蕪村 「蕪村句集」
秋寒し編笠着たる人の形  芭蕉 「梅郊句集」
秋寒し此頃あるる海の色  夏目漱石 「漱石全集」

秋風に歩いて逃げる蛍かな  一茶

2016-10-29 | 一茶鑑賞


秋風に歩いて逃げる蛍かな  一茶


夏の夜を彩った蛍も、秋風が吹くころになると飛ぶ力もない。
風に追われてよろよろ逃げるように歩く姿は、何とも哀れでならない。〔季語〕秋風

蛍が歩いて逃げるとは・・・
蛍は一茶の人恋しさの比喩であろうか
秋風を季語にして秋の蛍の哀れが鮮やかだ

ゆらゆらと秋の螢の水に落つ  寺田寅彦
この句にも同じような鑑賞ができる

仰のけに落ちて鳴きけり秋の蝉   一茶

2016-10-28 | 一茶鑑賞
仰のけに落ちて鳴きけり秋の蝉   一茶



秋の蝉も、いよいよ命を終えようとしているのか。
とまる力も失い、土の上に仰のけに落ちてジージー鳴いている。〔季語〕秋の蝉


上の句形は八番日記のもので、七番日記には、
【仰のけに寝て鳴にけり秋の蝉】(あおのけにねてなきにけりあきのせみ) とあります。

同じ句を何年もかけて推敲しているわけで、
一茶は即興で詠んでいるように見えても実際は納得するまで苦労をしているのですね

けふからは日本の雁ぞ楽に寝よ   一茶

2016-10-27 | 一茶鑑賞

けふからは日本の雁ぞ楽に寝よ




はるばると海を渡ってきた雁よ。
今日からは日本の雁だ。安心してゆっくり寝るがよい。〔季語〕雁

青森の外ケ濱に降り立った雁を詠んだものだそうです。

長い渡りを経てやってきた雁よ、
今日からは日本の雁だ。
動物にあたたかく優しい視線を向ける一茶ならではの句ですね。

名月をとってくれろと泣く子かな 一茶

2016-10-26 | 一茶鑑賞


名月をとってくれろと泣く子かな

名月を取ってくれとわが子が泣いてねだる。
親として、それにこたえてやれないじれったさ。
〔季語〕名月

ひとつ家に遊女も寝たり萩と月 芭蕉

この芭蕉の句との甚だしい乖離に安堵する
無理を云って困らせる吾子の可愛さが目に浮かぶ
芭蕉の覚めた感性とは大きく異なる
芭蕉よりも一茶を好む俳人は多い

有明や浅間の霧が膳を這ふ 一茶

2016-10-25 | 一茶鑑賞


有明や浅間の霧が膳(ぜん)を這(は)ふ


夜が明けても、まだ空に月が残っている
早立ちのために食膳につくと、
浅間山の方から霧が流れてきて
膳のあたりを這っている。
〔季語〕霧

浅間山には何度も行ったが、遅くまで騒いでいて
朝食はいつも宿の人に呼ばれる有様で
この一茶の旅情にはほど遠い

俳句には不真面目は相応しくないのだと今さらのように納得する