温故知新~温新知故?

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生贄探し 中野 信子, ヤマザキ マリ 著 読了〜日本人は、親切だ、礼儀正しい、真面目だ、協調性があると言われる裏には?〜

2021-10-18 18:53:31 | 

『生贄探し 暴走する脳』(中野 信子,ヤマザキ マリ):講談社+α新書|講談社BOOK倶楽部
「なぜ、誰かが得すると自分は損した気になるの?」
Go Toトラベルも、社会全体の経済をよくするためが、「あの人だけ、いい思いをするなんて許せない!」とモヤっとした人は少なくありませんでした。そんな負の感情が連鎖しやすい傾向こそ、日本人の脳の特徴だったのです。
一方、「日本人は親切だ」「日本人は礼儀正しい」「日本人は真面目だ」「日本人は協調性がある」──こうした日本人への褒め言葉をよく耳にします。でも実は、日本人はよその国の人よりいじわる行動をすると判明。自分が損をしてでも相手に得させない行為をする日本人。
パンデミックでは、コロナ禍で奮闘する医療者までも生贄探しの対象になりました。むき出しになった正義中毒に誰もが「他人の目が怖くて」自粛。巣ごもりで毒親に悩むケースも目立ちました。自他ともに生きにくさを増すこの時代、脳科学者の中野信子さんと、時代も国も越えた体験を描く漫画家・随筆家のヤマザキマリさんが鋭く分析。パンデミックの経験を無駄にせず、心豊かに生きる方法が得られます。
〈目次より〉
第1章 なぜ人は他人の目が怖いのか 中野信子
「魔女狩り」に見る人間心理の闇/幸せそうな人を見ると、なぜモヤッとするの?/脳は、誰かと比べないと幸せを感じられない/なぜ、「他人の不幸」は蜜の味なのか/世界でもいじわる行動が突出している日本人/あなたが生贄にされないために 他
第2章 対談 「あなたのため」という正義──皇帝ネロとその毒親
人はいともたやすく正義中毒にはまる/なぜ読者が、皇帝ネロに感情移入したのか/母親や重臣殺害の深層心理/自己評価の低さがおデブの引き金に/わが子を自己実現の道具にする毒親/間違った褒め方がプチネロを作る 他
第3章 対談 日本人の生贄探し──どんな人が標的になるのか
プチネロたちの脳内/「群れ」に生じる凶暴な安心感/なぜ、日本では陰湿な炎上が起きるのか/「群れに害をなす」というレッテル/ファッション化する「正義」/フェラーリで上がる男性ホルモンの値/キリスト教と仏教の救済の違い/攻撃する側の脳内を満たす快感/「得していそうな人」が生贄になる 他
第4章 対談 生の美意識の力──正義中毒から離れて自由になる
境目の人々に見えている世界/戦わずして勝つフェデリーコ2世の戦略/エンタメは負のエネルギーを浄化する/日本人を変質させた歴史のキーワード /「違い」を面白がれる生の美意識/自分は自分が大事、相手も自分が大事 他
第5章 想像してみてほしい ヤマザキマリ
「出る杭を打つ」日本を恋しがるイタリア人の夫/思い知らされた「世間体」という日本の戒律/想像力の欠如がヒトを危険生物化する/人を脅かし群れさせる「孤独」の正体/自他ともに失敗が許せない時代 他

この本は数ヶ月前図書館に予約し、予約が100件くらいでやっと先週の金曜日に順番が回ってきた。100件の割に早かったのは蔵書が10冊くらいあったから。そして昨日の午後4時間ほどで一気に読みました。
まず全体の感想ですが、冒頭の「はじめに」に書かれた「体内に取り込まれた異物を排泄するがごとく、集団は異質な者をどうにかして排除しようと足掻く。体中の免疫系の細胞を総動員するようにして、この異物を攻撃します。私には、ヒトの集団が、あたかも一つの巨大な生き物のようにみえています。」という文章に一発ガツンとやられました。今のコロナ禍で、免疫系がいろいろな形で戦っている姿と、世の中でいじめや、村八分だとか異分子を排除したり、正義中毒のヒトがなんとか警察的な行動をしたり群れをなす光景とが見事に重なったからです。
本の中身の概要は上の目次を参照していただければ概要はわかると思います。

いつもの通り、興味を引いたところを抜き出します。
「魔女狩りが猛威を振るったのは16世紀から17世紀にかけてのことです。被害者の数はおよそ5万人と言われます。魔女狩りが最も熾烈を極めた国は、ドイツでした。」17ページ 
〜5万人も被害者がいたんですね。また、その半分はドイツでの数字だそうです。〜

「人間の脳というのは、基本的には人間同士を近くにいさせたがるように作られています。略。一方で近づきすぎると今度は傷つけ合うようにもセットされています。そういうジレンマが人間には内包されています。」30ページ。
〜人間ってそもそもそう作られているんですね。〜

「なぜ、「他人の不幸」は蜜の味なのか」という節で、「ヒトはどうして、こういう状況のもとでイライラしてしまうのでしょうか。略。誰かが10万もらえた、ということを、自分の脳は10万円損したように感じている」36ページ。
〜自分自身を振り返っても、自分は恩恵を得られないのに、誰かが得をしてしまうのは許せないという感情は起きがちですね。でも、人の脳はそう作られているのですね。〜

「世界でもいじわる行動が突出している日本人」という節で、「冷静に考えれば、親切で礼儀正しいのは、相手に対して無礼に振る舞ったことが広まって誹謗されることによる不利益を被るリスクを抑えるためであったり、真面目なのは誰かから後ろ指をさされて村八分にならないための自衛行為であったりもします。」39ページ。
〜海外の人と比べて、日本人は確かに、このような特徴がある。日本人は、親切だ、礼儀正しい、真面目だ、協調性があるという背景はこういうことだと私も思う。こう考えると決して良い点とは思えなくなる〜

第2章の「妬みの構造」という節で、「自分で自分を評価する、という機構を、上手に使えない脳を私達は持っているかもしれません。」82ページ。
〜2章からは対談。やはり脳の構造がそうなっているんだ。〜

第3章の「「群れ」に生じる凶暴な安心感」という節で、「木村花さんのことでも、ネットでの誹謗中傷が社会問題化して法的措置も辞さないという有名人が増えてきたと知るや、死に追いやった人たちは後悔より先に「弁護士に『自分が特定された場合に負わされる可能性のある責任』について聞いた」と。そこですか⁉もう本当にこれにはぞっとしました。」93ページ。
〜私も日本人の民度の低さに驚きました。〜

第3章の「自分の空洞を埋めるための正義という節で、「人類平等を掲げればみんな正義になる。こんなことをいうと批難されるだろうけど、どこか短絡的で安直な情動性を感じてしまいます。96ページ。
〜TVのコメンテーターの発言はまさにこれでは?〜

第3章の「なぜ、日本では陰湿な炎上が起きるのか」という節で、(イタリアでは)「集合住宅の隣の部屋に暮らす人が陽性となっても、ベランダ越しに「自宅退避も大変だね、で、今日は気分はどうなの、大丈夫?苦しくなったら言ってね」なんて普通に会話している。何なんでしょう、この差異は。」100ページ。
〜私も隣人とは気軽に会話できないかも?普段からそうだけど。。。。〜

第3章の「群れに害をなす」というレッテル」という節で、「わかりやすい、やっぱり日本が他の国より感染拡大しないのは、感染すると、村八分にされてじわじわと殺されるというリスクが潜在意識にあるからかもしれない。」102ページ。 
〜医者や、専門家が何故感染拡大しないかに対して解を見つけていないようですが、これが解かもしれない。〜

第4章の「エンタメは負のエネルギーを浄化する」という節で、「少なくとも江戸の文化は、労働よりも「遊び」を大事にするものであったと言われています。略。そして、「遊び」というのは、単なる暇つぶしや無駄な時間をすごすということなどではなく、人々が敬意と好意を持ってうけとめるかっこいいものであったといいいます。その余裕があればこそ、社会的排除の暴走を各人が止めることも叶います。」148ページ。
〜江戸時代は、ある時期かなり調べたけど、ここで言う通り、遊びを非常に大事にした時代。今は効率を極端に追求するあるいは正義とするために、余裕がなくなってしまっている。20世紀はそうだったけど、21世紀で変わると期待していたが、現時点では変化はないようですね。歯車にも遊びがありますね。〜

第4章の「日本人を変質させた歴史のエピソード」という節で、「そして、ネオリベラリズムと呼応するかたちで功利主義の台頭が目立ってきました。面白いことに、排外主義とセットで、です。寛容さ=無駄、という理解なのかもしれません。」150ページ。
〜寛容さ=無駄かぁ、ある時期から極端に無駄の排除が正義とされる世の中になってしまった。〜

第4章の「違いを面白がれる生の美意識」という節から、「人間が生き延びることにどれだけの価値があるかしらと考えることもあります。」158ページ。
〜SDGsなどで持続可能なというフレーズをよく聞くけど、これはあくまで人間にとって都合の良い地球を継続するということで、人が神から選ばれたというような結構傲慢な考え方ですね。神はウイルスを選ぶのかもしれないのに。〜

同じ節で、「多様性という言葉だと、ちょっとありきたりですね。やはり先述したように、相手に自分を理解してもらうことより、自分が未知の相手を知って理解することに真の充足を覚えられる人、かな。」161ページ
〜私も、1995年位からずっと海外の会社と共同開発の仕事をしているけど、まさに、上の言葉がよくわかります。文化の違いをこえて理解し合うのは無理で、違いを知って、お互いを尊重することが大事だと痛感しています。〜

以上のように、私にとっては大変興味深い内容の本でした。

生贄探し 暴走する脳 (講談社+α新書) | 中野 信子, ヤマザキ マリ |本 | 通販 | Amazon
※とんでもなく的はずれなレビューがありますが、ああいった貧しい発想でしか満足を得られない人間にならないための本でもあります。
ヤマザキマリさん✕中野信子さんの共著第二弾(たぶん)。
ヤマザキマリさんの専門分野、古代ローマ皇帝を例に現代社会の正義中毒、毒親などを中野信子さんと鋭く対談している傑作。
古代ローマの話はさすがヤマザキマリさん。少し勉強しないと難しいけど、そこは問題ではない。あくまで例として出てくるので歴史に疎くても心配ありません。ヤマザキマリさんの漫画を読んでいればもっとわかりますし。
お二人のかけあいが気持ちいい読み心地です。
当然ですが、お二人とも、ただ人の行動、心理の悪を羅列してるわけではないです。
お二人の凄さは、人の美(美徳)にひそむ醜、人の醜さにもひそむ美(美徳)を見出し、問題解決を探れるところだと思います。
ネタバレするので印象的な一文を3つ。
○不条理や理不尽や失敗の経験は、どんな甲冑を装着するより効果的
○集団が個に優先する現象に飲み込まれている
○恥ずかしいと思うことは、自分の考えたり感じたりしていることを、客観的認知するメタ認知によるもの〜この恥ずかしいの感覚がある人だと、正義中毒になるかもしれないところを、自分自身の意思で止められるかもしれません
コロナ禍で顕著、顕在化した、他人が得(優遇)すると自分が損した気がするという認知のズレや、出る杭は打たれるといった諸問題などがクリアになる一冊です。
3回目の緊急事態宣言でみんなもやもやしてます。私もです。そんな時に読むと少しでも自分の考え方、捉え方、他人をみる目が変わります。自分を守る術のヒントにもなります。
そんな一冊でした。おすすめです。