厚生労働省が、認知症対策を総合的に進めるための国家戦略案をまとめました。同省のほか、関係府省庁が横断的に取り組む。政府は今月中にも国家戦略を正式決定する方針とのことです。
新しい戦略案は厚労省が2013年度から始めた「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)に代わるものです。
戦略案では基本的な考え方として、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた環境で自分らしく暮らし続けられる社会の実現をめざすことを明記。その上で、(1)認知症への理解を深める普及・啓発の推進(2)認知症の程度に応じた適時・適切な医療・介護の提供(3)若年性認知症施策の強化(4)介護者への支援(5)患者らにやさしい地域づくり(6)予防法、治療法などの研究開発(7)患者本人とその家族の視点の重視――の七つの柱が掲げられています。
具体的には、認知症への理解を深めるため、全国的なキャンペーンを展開。認知症の人が自らの言葉で語る姿を発信する。学校現場でも高齢者への理解を深める教育を進める。
認知症についての基礎知識と正しい理解を身に付け、認知症患者と家族を手助けする市民ボランティア「認知症サポーター」は全国で545万人(14年9月末時点)に上る。現行の養成目標である600万人達成(17年度末)が目前に迫っているため、800万人に上積みする。
また、認知症の早期診断・対応につなげるため「初期集中支援チーム」を17年度までに全ての市町村に設置する方針が盛り込まれた。初期集中支援チームは、看護師らが認知症の疑いのある高齢者の自宅を訪問し、早期発見につなげるもの。
かかりつけ医の認知症対応力を強化することや、認知症サポート医の養成も掲げています。
支援員が患者本人や家族の相談に乗り在宅生活をサポートする取り組みも、18年度から全市町村での実施をめざす方針。
65歳未満で発症する若年性認知症は09年時点で推計約3万8000人。家計を支える働き盛りの世代のため経済的な問題が大きく、本人や配偶者の親などの介護と重なって複数の人の世話をする「多重介護」に直面する恐れも高い。このため、都道府県に相談窓口を設けて担当者を配置、交流の場づくりや就労支援など対策を強化する。
一方、認知症患者を含む高齢者にやさしい地域づくりも進める。徘徊で行方不明になる人の早期発見・保護のために地域での見守り体制を整備することや、詐欺などの消費者被害を防ぐための相談体制を設けることなどを打ち出しています。
政府が認知症対策を新たに国家戦略として打ち出したのは高齢化に伴い、認知症の人が今後急増する見込みによります。厚労省がまとめた推計では、認知症の高齢者数は25年に最大で730万人に達するとししています。
これは65歳以上の5人に1人という割合。
推計は、福岡県久山町の住民を対象に実施している健康診断の追跡調査を基に、厚労省の研究班が算出した。それによると、団塊の世代が75歳以上になる25年には、認知症の高齢者が675万人となる。認知症発症に影響を与える糖尿病の有病率が増えた場合は730万人に上る。別の研究班は12年時点で462万人と推計しており、十数年で約1・6倍に急増する見通しです。
認知症対策はこれまで、厚労省が「オレンジプラン」に基づき、早期診断と患者・家族への支援などに取り組んできた。だが、医療や介護が中心で、認知症の初期段階の人や暮らし全体を支えるには不十分だと指摘する声もありました。
相談窓口の整備や居場所づくりなど、当事者が望む支援は幅広い。
さらに、認知症の疑いがある人の交通事故や悪徳商法の被害、相続上のトラブルなど多岐にわたる問題も発生しています。各省庁が認知症高齢者の支援策を実施していますが、個別で対策を実施するには限界。
欧米主要国では、国を挙げた対策に乗り出しています。例えば、英国やオーストラリアなどでは、早くから認知症対策を国家戦略と位置付けて対策を進めています。
世界で最も高齢化が進む日本こそ、国を挙げて対策に取り組み、世界をリードすべき状況といえます。そこで、公明党は国会質疑の中で認知症対策の国家戦略化を訴えてきました。
その結果、新戦略案では、厚労省を中心に内閣府、法務省、警察庁など計12の関係府省庁が共同で必要な施策をまとめたとしています。
地域で具体的にどのように取り組むか、重要課題です。