硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

あとがき。

2014-09-01 06:49:48 | 日記
「風立ちぬ」君さりし後。楽しんでいただけましたでしょうか。

映画の世界観を維持できていたでしょうか。書き上げて見たもののとても不安です。

正直に言うと、戦争と言う訳の分らないものや、人の命が無差別に奪われてゆくといった重い出来事は、描いていても楽しいものではありませんでした。
そして、宮崎駿さんの集大成でもある作品の「間」を言葉だけで埋める事の無謀さに痛感しました。でも、今はなんとかラストシーンに辿り着けてほっとしております。

この物語は戦争と言うテーマを含んでいるので、読んでいて不快な気持ちになられた方もいらっしゃったかもしれません。でも、それは僕の力不足です。本当にごめんなさい。

それでも最期までお付き合い戴き、ありがとうございました。


「風立ちぬ」 君さりし後 最終話

2014-09-01 06:47:14 | 日記
療養所で生活を始めてから一年が過ぎたその年の冬。夏ごろから体調を崩した次郎は喀血も始まり、身体もずいぶん痩せて、付き添いの看護婦がつくほど衰弱していた。

療養所の辺り一面が雪に埋もれ、暖房が利かなくなるほど冷え込んだある夜、次郎はいつものように胸が苦しくなった。力を振り絞り、細くなった腕でベッドを押して身体を横に向けると、内臓の奥から何かが大量に飛び出すのを感じたが、不思議と重力を感じぬほど体が軽く感じ、いい得も知れぬ心持になった。
すると、看護婦が遠くの方で「先生!先生!」と、叫んでいる声が聞こえ、ぼやけていた視界が暗くなったかと思うと、今度は目がくらむほどの神々しい光に包まれた。眩しさのあまり目を閉じると、光は次第に自然光に変わってゆき、ゆっくり目を開けると、眼前に青々とした草原が浮かんできたが、よく目を凝らすと、煤煙が立ち込める中に、飛行機の残骸が累々と広がっており、散乱する部品の傍で芽生えたばかりの草が風に揺られているのが見えた。

次郎はしっかりと地を踏みしめながら丘に向かって歩いてゆくと残骸はなくなり、その先の空にはカプロー二と初めて出会った時の雲が浮いていた。

すると、突如、丘の上にカプローニが現れ、振り向きざまに、

「やあ! きたな。日本の青年! 」

と、言って次郎を迎えた。

「カプロー二さん。」

次郎はカプローニの方に歩んでゆくが、カプローニは眼前に広がる草原をじっと見つめていた。

「ここは、最初にお会いした草原ですね。」

歩み寄った次郎が話しかけると、カプローニが次郎に向けて語った。

「我々の夢の国だ!」

その言葉に次郎は、

「・・・地獄かと思いました。」と、答えると、

「ちょっとちがうが、似たようなものかな・・・。君の十年はどうだったね? 」

と、問うた。すると次郎はカプローニを見て、

「終わりはズタズタでした・・・。」と、力尽きたように答えた。

「あれだな。」

平原の彼方からきらきら光るものが見えると、聞き覚えのあるエンジン音と共に零戦の編隊が次郎達の目の前を通過しようとした。

「ほほう・・・。」

零戦のパイロットの一人が次郎に向けて片手を上げて挨拶を送った。そのパイロットが誰だかわかった次郎は悲痛な表情で手を振った。カプローニもそれに合わせて帽子のひさしに少し手を触れ敬礼をした。

夕焼けの空に向かって零戦の群れが上昇してゆく。空はどこまでも高く澄み渡っていて、太陽光に反射してきらきら輝いていた機体はその中に消えていった。

「美しいな・・・。いい仕事だ。」

カプローニは次郎の仕事をねぎらったが、

「一機も戻ってきませんでした・・・。」と、言って消えゆく機体の軌跡を眺めていた。カプローニは、

「征きて帰るものなし・・・。飛行機の宿命だ! 」

と、言った後、次郎を見やり「君に合わせたい人がいる。」と、言うと、次郎はカプローニの方に振り向き、カプローニの目線の先に目をやると、風渡る草原の中に白い日傘をさした女性の姿が見えた。

その女性はかろやかに歩みつつ次郎の方に向けて手を振った。

「奈穂子・・・。」次郎は呟きながら一歩ふみだすと、カプローニが、

「ここで、君が来るのを待っていたんだ。」と、言った。

次郎の顔が次第にほころび、それを見てとった奈穂子も晴れやかな表情になり、歩み寄りながら

「あなた! 来て! 」

と、言うと、突然強い風が吹いてきて、浮かんでいた雲が流れだした。歩みを止めた次郎にカプローニが、

「君の為に祈っていたんだ。」

と告げると、揺らめく草原の中、奈穂子がもう一度、

「来て! 」

と言った。その言葉に次郎が頷くと、自然に涙が頬をつたった。それを見た奈穂子は微笑むと、風がさらに強まり菜穂子の日傘を奪い去って、空高く舞い上がった。
すると、奈穂子は安心した表情を浮かべながら、草原の中に溶けてゆき、舞い落ちた白い日傘は緑の海原を転がりながらどんどん離れて行った。

「彼女は今、安心して行くべき所に行ったのだ! 」

カプローニがそう言うと、次郎は青年の姿に戻り、消えていった奈穂子の方を見つめて、

「ありがとう・・・。ありがとう・・・。」

と、言った。その姿を見届けたカプローニは再び次郎に声をかけ、

「・・・わしらもいかねばならんのだが・・・。ちょっと寄って行かないか? いいワインがあるんだ。つもる話を聞こうじゃないか。」

と言って、丘を下りだすと、次郎もカプローニの後に続いて丘を下り始めた。

雲はゆっくりと流れ、どこまでも広がる草原には緩やかな風が吹き続け、幾重もの草の波が、はるかかなたに向けて渡っていった。細い小道は奥まで伸びていて、その先には木造の小屋が見えた。それは飛行機作りが始まった最初の小屋であった。

                         終わり