硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 65

2021-06-28 21:46:15 | 日記
その日、君塚明日香は、来年の総体が最後の大会になるからと、両親におねだりをして、おこずかいとは別にスプリントスパイクのお金をもらうこと事に成功し、金額を気にしないで自分の納得がいくスパイクが買えるという、嬉しさに浸りながら、足取り軽く歩いていると、駅前の人ごみの前方から、隣町の女子高の生徒と先輩が手を繋ぎながら歩いてくるのを偶然に発見したのだった。

一瞬、見間違いだろうと、自分の目を疑ったが、徐々に近づいてくる人物は、先輩で間違いなかった。
陸上競技で共に汗を流す同志であり、先輩だからと信用していた人物の裏切りは、彼女の足取りを重くし覇気を奪った。
それでも、冷静を保ち、こみ上げる怒りをねじ伏せ、すれ違いざまに「先輩こんにちは。今日はデートですか? 」と笑顔で告げると、何か話しかけようとする先輩をしり目に全力で駆けだして、シューズも買わずに帰宅した。
そして、翌日、陸上部を退部し、先輩からの連絡や、友達伝の連絡も、ガン無視を通した。

同じような失敗を繰り返す事に悩んだ君塚明日香は、高校生は子供だから駄目なのだという短絡的な答えを導き出し、SNSで知り合った、サラリーマンの男や大学生の男と付き合ってみたのであるが、結果はさえないもので、サラリーマンの男は、奢ってはくれるが、ナルシストで、口ばかり巧くて、独りよがりのセックスと薄っぺらい人柄に嫌気がさしてしまい、大学生の男は、きちんと勉強もしていて、しっかりしているように見えたが、中身はチャラ男で、地雷を踏んだ形になった。
高3の一学期の終わりには、男という生き物は軽薄なのだという答えを導き出し、受験という理由で関係を清算したが、不思議と悔しさも悲しみも感じなかった。

かくして濃厚な経験を経てきてしまった君塚明日香は、一目ぼれという、衝動的に心を動かされる出会いを知らぬままに、「つまらない男に気を使ってまでして、得られるものってあるのだろうか」という、少し屈折した疑問に突き当たってしまったのであった。