「太郎(仮名)お昼からお客さんがお見えになるから、午前中に雪隠(せっちん)の掃除をしておいて!」そういえばおふくろはトイレのことを雪隠、雪隠、と云っていた。当時の我が家はトイレが2か所にあって、座敷の奥にあるのを、「上便所」または「雪隠」といい、外のものを「外の便所」または「便所」といい、何故か「外の雪隠」という言い方をしなかった。
↑焼黒一木囲炉裏テーブル(施設内)
雪隠の掃除は子供にとって大仕事だった。まず、底に[下]と書いてあるバケツ二つに水を汲んでそれぞれに雑巾を入れて両手に下げて雪隠へ向かう。水道が引けたのはそれから4~5年後だから、井戸で水を汲むのも大変だった、母屋の南東の角にスレート葺の屋根の下に井戸があった。
井戸には長い木の棒が出たポンプがあって、その棒を上下させて水を汲む。棒を下げる時に水が出るが、このとき、棒は重い。殆どぶら下がるようにして棒を下げる。水を汲む作業はその繰り返しである。トイレに着いたらまず紙が入れてある箱を整理し、紙が少なくなっていたら追加する。トイレットペーパーが普及したのはこのときより、14~5年後である。続いてタイルの部分の雑巾がけをする。もう一つのバケツの雑巾を使って便器の雑巾がけで一切の汚れを拭き取る。窓を閉め忘れて落ち葉が舞い込んでいたりする時は、もちろん、外箒で掃きだす。最後に窓を少し開けてトイレ掃除は終了である。また井戸まで戻って雑巾を洗いなおしてよく絞って干して、やっと全ての作業が終了である。
何かの折に「雪隠はおばあちゃんの言葉で、お母さんは使わないで。友達の家でも雪隠なんて、どこもいっていないよ。お母さんは僕ぐらいの時トイレのことをなんて言っていた?」ときいたこともあった。「女学校の時は「お手洗い、憚り(はばかり)、 ご不浄、 厠(かわや)、WC ,お便所」、といろいろあったよ。今東京の女学校ではこうゆうらしいよ、という噂が広がると、あっという間に皆がそう云うようになっていろいろあったけど、忘れちゃったかなあ。お手洗いが一番使われていたかなあ」と云っていた。そういえば、同じ階の書家は「便所」「小便」と堂々と言われ、風格がある。オソマツ君はトイレ小とか、トイレ大とかいっているようだ。やはり、オソマツである。
そう云えば、幼児語を使って「オシッコ」「ウンチ」と云う言葉をよく耳にするようになった。これを使うのはお婆ちゃんに多い。やはりオソマツである。もっと高貴な言葉を知っている人はコメントを使って公開で教えて欲しい。お願いである。高貴な言葉もあるはずだ。