四日目のことでございます。
娘が、とつぜんに帰ってまいりました。
そして部屋に閉じこもり、日がな一日泣きじゃくるのでございます。
理由を問いただしても、ただただ泣きじゃくるばかりでございます。
娘の顔を見たいと願うわたくし目ですが、なんど声をかけても
「放っといて!」とかえってくる始末で。
もう涙がでてまいります。
その点、女は冷たいものでございます。
素知らぬ顔をしております。
いまはなにを言っても無駄ですよ、と取り合いません。
お友だちと喧嘩でもしたのでしょ、と言うのです。
しかし不思議なもので、そのように言われますと、そんな気がしてくるのでございます。
ところが、事はそんな生易しい事態ではございませんでした。
娘を追いかけるように顧問の先生が見えたのでございます。
畳に頭をこすり付けての謝罪でございます。
申し訳ございません、もうしわけございません、とただただ謝られるだけでございます。
娘のからだに傷でも付けられたのかと、気が気でなりません。
妻ですか?
さすがに妻も、顔を曇らせております。
いえ、曇らせるどころではありません。
見る見る顔が紅潮して、怒鳴りつけるのでございます。
どうやら仲の良い友だちと夜の散歩中に、複数の男たちに襲われたようでございます。
幸いにもご友人がうまく逃げだして、助けを求めたとの事。
未遂に終わったとはいえ、そのショックは大きく、失意のなか立ち戻ってきたのでございます。
しかし妻は、はなから犯されたものと決めつけて、あろうことか娘を非難致します。
やれ医者だ、警察に訴える、と大騒ぎして、娘の純真なこころを傷つけるのでございます。
わたくしは、あまりの妻の狂乱ぶりに呆気にとられておりました。
が、なんとか妻をたしなめて、その騒ぎを納めました。
わたくしにしても、はらわたの煮えくりかえる思いではございました。
が、娘の将来のことを考えて、この騒ぎはそれで終わりにしたのでございます。
しかし妻とわたくしの間に、このことにより埋めようのない亀裂が生じてしまったことは、改めて申すまでもございますまい。
わたくしは、妻の口ぎたない罵りをひと晩中聞かされました。
が、わたしの耳には届いておりません。
ただただ、娘のことばかりを考えておりました。
成熟しはじめた娘の体つきや細やかな仕草。
それらに歓喜の情にふるえていた折りでもあり、ただただ聞き入っておりました。
ただただ、娘のことばかりを考えておりました。
ときおり見せる妻の冷厳な目つき、すこしの無言があり、「なるほど」とか「やっぱり」ともれることも。
わたしの心を見透かされたような錯覚に陥り、冷や汗がどっと……。
半狂乱の妻の罵倒は、夜明けまで続きましたのでございます。
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