昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百二十六)

2024-06-04 08:00:04 | 物語り

 珍しく武蔵から、小夜子に病院までひとりで来るようにと連絡が入った。
いつもなら竹田の迎えがあり、武士を連れての見舞いを喜ぶ。
病室に入れなくとも、窓越しにでも武士の顔をみたいとせがむ武蔵だった。
それが今日に限っては、かならずひとりで来いと言う。
すこし長くなるかもしれぬから、武士が寝付いてから来いとも。
なにやらイヤな予感を感じつつも、このところは体調が良いらしく、看護婦相手にじゃれている場面にでくわしたこともある。

 かつて目にした、キャバレーでの武蔵の遊びを、まさか病院で見るとは思いもせぬことだ。
看護婦が出たあとに、キッとにらみつけて
「こんなところでも浮気癖がでるものなのね。
いっそ退院したらどう? 両用専用のホテルにでも入ったら」
と、イヤミたっぷりに告げた。
ふとんの上で遊び相手がいなくなったと所在なげにしている腕を、思いっきりつねってやった。
“でも良かった。元気が出てきた証拠なのよね”
そう思わないでもない。そして今日は、その相手が自分なのか? と、不謹慎な思いを抱いてしまったりした。

 ひとり取り残されると分かったせいなのか、今日は朝から駄々をこねる武士だった。
ウトウトとしはじめたことから昼寝をしてくれると思い出かける支度をはじめると、火が点いたようにワーワーと騒ぎ出す。
千勢があわてて抱き上げても、普段ならば小さくしゃくり上げる武士が、収まらない。
おしゃぶりを与えてもすぐに吐き出してしまう。
そしてかわいらしい紅葉がそれをたたき落とそうとする。
小夜子が抱いてもまだ泣き止まない。
ならばとブラウスのボタンを外しにかかると、ピタリと泣き止んだ。
そしてさも愛おしげに、両手でおっぱいを抱え込みチューチューと乳首に吸い付いた。

「やあねえ、もう。武蔵といっしょだわ」
 のぞき込むようにしながら武士の閉じられた目を、安心感、満足感をたっぷりと持って吸い付いている。
「いたっ! 歯がはえてきたから、このごろはかまれたりして痛いのよ」
 満足そうに微笑みながら、千勢に言う。千勢もまた
「そうですかあ、そうですかあ。タケシ坊ちゃんは、ママのおっぱいが好きですかあ」
と、満面に笑みを浮かべて返してくる。煌々とともる灯りの下で、女性ふたりが赤児の所作に見とれている。
しばらくすると吸い付く力が弱まり、両手もまただらりとなる。
しかしそこでおろそうとするものなら、パチリと目を開けてしっかりと吸い付いてくる。

千勢が用意したふとんの上に、小夜子が武士を抱いたまま横になる。
武士の吸い付く力が弱まる、ならばと離れようとすると吸い付く力がつよくなる。
弱まる、離れる、つよくなる……。
幾度かくりかえす内に、武士が眠りに入っていった。
ゆっくりと離れて起き上がると、千勢と交代する。
千勢もまた上半身を裸にして、その小ぶりな乳房を武士に与える。
目を閉じたまま、出もせぬ乳首に吸い付く武士だった。
しっかりと武士の両手が千勢によって乳房にあてがわれ、そのままスースーと軽い寝息を立てた。



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