とつぜんに下腹部にはげしい痛みが走り、生暖かいものが内股に流れた。
あわてて産婆を呼んだが、その出血を見た途端に暗い顔を見せた。
そしてすぐに、産院に行けと言う。
「どうなの、どうなの。おたきさん、大丈夫よね?
まだ産み月じゃないものね。ちょっとした手違いよね?
だってあたし、あたし、じっとしてたんだよ。お医者さんの言いつけを守ってたんだから」
不安な思いが、しだいに絶望感をともないはじめる。
産婆はひと言も口を開こうとしない。いつも饒舌な産婆が、だ。
そして病院に向かう間中、ずっと梅子の手をにぎりしめてくれていた。
「先生、どうしてなの? 言い付けを守って、じっとしてたんだよ。
ほんとに大事にしてたんだから。なのに、なのに、なんで、どうして……。
ひどいよ、神さま。酷じゃないか、あんまりだよ。
欲しくないと思ってたあたしを、あたしを。その気にさせといてさ、今さらなんだい!
気まぐれなのかい、神さまの。それとも、あたしに罰を与えたのかい?
なんだよ、なんだよ、どんなひどいことをしたと言うのさ。
ふん、そうだよね。神さまなんて信じちゃいないあたしがさ、神さまを恨むというのは筋違いかねえ。
恨むなら自分かい? 不摂生のかぎりをつくしてきたあたしだ、赤ちゃんは、頑張ったんだよねえ。
ごめんよ、ごめんよ。こんな母親で、ほんとにごめんよ」
打ちひしがれる梅子に、付き添ってきた産婆が優しくこえをかけた。
「今回は残念だったけど、またということもある。
それに私生児で産まれた子供の行く末は、ひどい言い方だけどひどいもんだよ。
あんがい、これで良かったのかもしれないよ。今度は、きちんとしたお相手の子供を、ね。
お父さんになってくれるお人を、お選びね。あんたの器量なら、きっと現れるだろうさ」
そんな産婆の気遣いも、梅子の耳にはとどかなかった。
“あたしには、母親になる資格がないんだ。
こんなうわばみ女には、子どもなんてもったいないんだよ。無理なんだよ”
「小夜子。あたしゃ、あんたの母親代わりだろ?」
「ええ、もちろんです。ほんとは梅子母さんって呼びたいんですけど、それじゃ梅子さんが嫌だろうって思って。
それで梅子姉さんって呼んでるんです」
「いいよ、いいよ。梅子母さんでいいよ。それでだ、母親として小夜子に言っておくことがある。
胎教って、知ってるかい? お腹の赤ちゃんというのはね、お母さんが考えることが分かるんだよ。
お母さんが感じることを、赤ちゃんも同じように感じ取るんだよ。
怒りの気持ちを持てば、赤ちゃんも怒りの気持ちを持っちゃうよ。
お母さんが悲しめば、赤ちゃんもかなしむんだ。だからね、心おだやかにいなくちゃいけない」
小夜子のおなかをさすりながら、小夜子だけでなくおのれにも語っていた。
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