さむらい小平次のしっくりこない話

世の中いつも、頭のいい人たちが正反対の事を言い合っている。
どっちが正しいか。自らの感性で感じてみよう!

タクシードライバー日記 どちらまでですか?⑮ 『前の車を追ってくれ!』

2023-11-22 | タクシードライバー日記


こんにちは、小野派一刀流免許皆伝小平次です

小平次は、今の生業に就く直前、タクシードライバーを4年半ほどやっていたんです
その時のことを、インド放浪記風、日記調、私小説っぽい感じで記事にしていきます

本日は

『前の車を追ってくれ!』

乗車地
『日本堤付近』

降車地
『錦糸町駅北口付近』

****************

 『待て! こら 止まれ!! 逃げるな!!』

 よく、昔の太陽にほえろだとかの刑事ドラマなどで、刑事が犯人を追っていると、犯人がタクシーに乗り込み逃走、逃げられたか、と思った瞬間、偶然? すぐに後続のタクシーが来て、犯人を追っていた刑事が警察手帳を見せながら

『前の車を追ってくれ!』

などと言うシーンを誰もが一度は見たことがあるだろう。

 本当にそんなことがあるのだろうか。

 ある日の昼間、おれは北千住方向から日光街道を上野方面へ向けて走っていた。浅草方面を少し流そうか、そんなことを考えながら日光街道と明治通りの交差点、大関横丁を左折、日本堤付近から車を浅草方面へ向けた。すぐに、少しイカツめの体格のいい男二人が手を上げた。

 おれは車を寄せドアを開ける、男二人が素早く乗り込んでくる、そして何も聞かない内に急くように言った。

『前の、あのバス、あのバスをつけてください!』

『えっ? あ、は、はい』

 おれはメーターを入れた後、すぐに言われた通りに走り出しバスの後ろについた。バスは『錦糸町駅』行だ。錦糸町までの最短ルートはすぐに頭に浮かんだが、都営の路線バスがどのルートを通るかまではわからない、ただ事ではない男たちの雰囲気からも、『見失うわけには行かない圧』がすごい、おれは少し緊張しながらバスを尾行する。

 警察手帳を見せられたわけでもないので、この二人が刑事なのかどうかはわからない、探偵事務所の所員かもしれない、だが醸し出すそのカタギとはまるで違うオーラが、この二人が間違いなく刑事であることを物語っていた。

『運転手さん、ちょっと近いな、もう少し離れて』

『あ、はい。。』

 言われた通り少し車間を開ける、万に一つも尾行に気づかれてはならないのだ、だが、車間を開ければバスとおれの車の間に他の車も入る、間に入ったのが乗用車ならば良いが、車高の高いトラックなどが入ったらバスが見えなくなる、おれはさらに緊張しながら微妙なアクセルワークで車を進める。

『あっ!運転手さん、バスがバス停に停まる、ゆっくり、ゆっくりハザード焚いて左に寄せて』

『は、はい!』

 おれもすっかり捜査の一員に加わったような緊張感に包まれ指示に従う。男二人は、停まったバス停で、目的の人物が降りたりしないかをじっと目を凝らしていた。

 それにしても、なかなかにこの尾行は難しい、適度に距離を取らなければならないため、信号などのタイミングによってはバスが交差点などを通過する際、バスだけ先に行いってしまい、こちらは信号待ちで置いて行かれる、そんな事態になれば見失う可能性もある、男二人は、運転席と助手席の間から乗り出すように、それでも顔はやや伏せながら、鋭い目つきで前のバスを追っている。

 何とか離されず言問通りに出る、左に曲がり、建設中の東京スカイツリーを横に見ながら浅草通りを左折、時折バス停で停まるのを上手くやり過ごしながら押上付近、四ツ目通りを右折する、このまま真っすぐで錦糸町駅だ。目的の人物は終点の錦糸町駅まで向かうようだ。

 錦糸町駅に着いたら、その後どんな展開になるのだろう、おれは妄想を巡らせながらも、あと少し、自分の役目を果たそうと気を引き締めた。

 いよいよ四ツ目通りと北斎通りの交差点、右折すればもう錦糸町駅だ、バスとおれの車の間に3台ほどの車を入れたまま、北斎通りへの右折レーンに入る、直進信号が赤になり、右折矢印が点灯、右折レーンの車が右折を始める、何台か右折の後、バスも右折、これは…、おれの車まで右折できるか、微妙なタイミングだ、車内に緊張が走る!!

『ああああ!! 行け! 行け!』

 男二人が声を張り上げる。

 だが、無情にもバスとおれの間の2台が右折したところで信号が赤になった、残っていた1台がそのままおれの前で停車、完全に置いて行かれた!!

『ああああ! マズイ!! 運転手さん、急いで、お金精算してドア開けて! 』

 そう言って男の一人が千円札数枚を置いた、おれは慌てて釣銭とレシートを渡し、こんな車道ド真ん中の右折レーンでドアを開けていいものかと一瞬とまどったが、言われた通りドアを開けた。イカツい男二人がすごい勢いで車から飛び出し錦糸町駅の方へ走り去って行った。

 その後、おれはその交差点を普通に右折し、錦糸町駅のロータリーに目を向けたが、男たちの姿は見当たらなかった。

(上手く追えたのだろうか… )

 あの右折できなかった件については、前の車が停まった以上、おれにはどうすることもできなかった、だが、プロドライバーの一人として、刑事たちの役に立てなかったかもしれない、そう思うと、どうにも悔しい思いが込み上げてきた。

 それにしても、

『前の車をつけてくれ!』

本当にこんなことがあるのだ、この仕事はやっぱり面白い。




*******************

いや、ほんと、最後に右折レーンに取り残されたときは、とても残念な気持ちになりました。刑事さんたち、わざわざバスをつけさせたってことは、錦糸町駅で降りた後も尾行するつもりだったのでしょうね。

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