鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

親子虎図目貫 一宮長常

2009-10-29 | 目貫
親子虎図目貫 一宮長常 









 敦賀市立博物館で開催されている《一宮長常展》のポスターにも使用されている親子虎図目貫。金無垢地を肉高く打ち出し、丸みのある身体を実体的に表わし、鏨を強く切り込んで顔、手足、体毛やその縞模様を表現している。
 長常(ながつね)は、その初期には雪山(せつざん)と銘していたと言われている。雪山銘の作品は後に紹介するが、完成された片切彫平象嵌の手法とは異なる高彫が主である。だが、仔細に観察すると、高彫に片切彫を加えて表情に強みを与えているところなど後の片切彫を巧みとした素質が覗える。
 この目貫などは長常の技術が極まった頃の作と考えられ、四肢や肩の筋肉の動き、雌雄対峙するその表情、雄虎を怖れて母の陰に隠れようとする子の様子などが、生命感という言葉が陳腐に思えるほどに強く伝わってくる。裏行も鑑賞してほしい。性の良い金無垢地を肉厚く造り込み、際端を絞って立体感を出している様子が良く分かる。

 11月の末まで開催されている《一宮長常展》には数十点の長常作品が展示されている。時間があったらぜひ見ておきたい。