鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

親子鶏図目貫 一宮長常

2009-10-30 | 目貫
親子鶏図目貫 一宮長常




                 





 一宮長常作親子鶏図目貫。この目貫も敦賀市立博物館で開催中の《一宮長常展》にて展示されている。
迫力あるこの表情をご覧いただきたい。片切彫鏨や毛彫鏨で刻され切り込まれた身体が滲み出しているのは、まさに生命。殊に目玉が活きている。雄鶏は赤銅地、雌鳥は朧銀地、雛が金無垢地と、素材を使い分けている点も見どころ。
 鳥を描いた絵画として思いつくのは、古くは室町時代の屏風などに採られた花鳥。自然の一場面を構成する鳥であり、平安王朝が求めた自然美の流れを汲むもの。江戸時代に中頃には円山応挙などが写生を下地に絵画を製作。その正確で精密な描写を尊ぶ流れは金工の世界で活性化し、ここに紹介するような作品へと至った。伊藤若冲にも鶏を題に得、細い絵筆を駆使し、多彩な色絵を用いて描いた作品がある。ところが装剣金工は、鐔で8センチほど、小柄で左右10センチ、目貫ではわずか3センチ。絵画表現とは描画面積が天地ほどにも差がある。この極小空間に、数種類の金属と鏨のみで描き表わす驚異の世界を堪能してほしい。