鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

鯉魚図鐔 安親 Yasuchika Tsuba

2011-09-20 | 鍔の歴史
鯉魚図鐔 (鍔の歴史)


鯉魚図鐔 安親

 ゆったりと大波を掻き分けて進む鯉魚。登竜門の言葉を意味している作であり、激しく立つ波は瀧のそれを意図している。安親には、月見図のような市井の人物図、風俗的な図、純粋に文様表現もあるのだが、当然のこと武家の伝統的な美意識を暗示させる図が多い。なにもかも多いのだが、このような古典的な図柄を巧みな彫刻で表現する。鉄地高彫金象嵌。
 安親は鯉魚のほかに蟹や貝などの水中に生きる小動物を題に得た作品も多く遺している。特に蟹図縁頭は頗る多い。それぞれに異なった場面を描き、地金も真鍮、素銅、赤銅など様々。縁頭には鯉魚図もある。このように多くの蟹図を残していることから、蟹に何らかの意味があるのではないかと考えて調べたところ、やはり登竜門と関わりのある古代中国の制度、中国の古典が背景にあることがわかった。野の小さな自然風景に目を向けたものと思われがちだが、装剣小道具の初期のものには、やはり何らかの意味が秘められていることは確かなようだ。
 そのような時代背景の中で、全く発想を異にする、洒落気を含んだ図を生み出す安親の感性を、このようなところからも再確認するのである。