鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

日枝山王祭図小柄 後藤顕乗 Kenjo-Goto Kozuka

2012-07-11 | 鍔の歴史
日枝山王祭図小柄 (鍔の歴史)



日枝山王祭図小柄 銘 後藤顕乗作(花押)

 現在でも毎年春に滋賀県大津市の坂本で行われている歴史のある祭、日枝山王祭の様子を描いた作。幅広く寸法の長い大小柄(おおこづか)の造り込みで、戦国時代末期から桃山時代、江戸時代初期に用いられたもの。群集の蠢く様子、琵琶湖上で繰り広げられた祭の様子が、この密集ゆえに生々しく伝わってくる。類例稀な作であり、要所に伝統的な表現を配しながらも個性の強い作品とされている。
 そもそも日枝山王社とその西の比叡山延暦寺とは深い関係があり、武装した僧が大挙して神輿を担ぐ行為には為政者に向けられるなにものかがある。即ち、この伝統の祭に関わる延暦寺の僧が、祭に乗じて京の都になだれ込んだことが度々あったという歴史背景。強訴に他ならない。そんな力が感じられる作品である。顕乗の自身銘が戸尻に刻されている。□


駒引猿図小柄 後藤顕乗 Kenjo-Goto Kozuka

2012-07-09 | 鍔の歴史
駒引猿図小柄 (鍔の歴史)


駒引猿図小柄 銘 後藤顕乗(花押)

 後藤顕乗の自身銘が刻された作品。幾度か説明したように、後藤家在銘作は大変に貴重。献上する作品には銘を入れないという慣例があったようだし、上三代には在銘作はなく、ようやく現代に売り物として出てくる後藤の在銘作は栄乗辺りから。それでも少ない。この小柄は、金の魚子地に暴れる馬を必死でなだめようとしている猿を高彫で描いた作。古く、厩では猿を飼うを慣わしとしていた。猿は馬と相性が良いらしいのだが、それと同時に、馬の流行り病を速やかに知る手段として猿が同じ場所で飼われたというのである。
後藤宗家七代顕乗は五代徳乗の次男。分家して理兵衛家を興すも、栄乗の嫡子(光重即乗)が若かったために宗家を継いだ。後に光重に家督を戻す。加賀前田家の御用を勤めた一人で、加賀金工の発展に寄与しており、加賀後藤の呼称が遺されている。

瓢箪鯰図目貫 後藤顕乗 Kenjo-Goto Menuki

2012-07-08 | 鍔の歴史
瓢箪鯰図目貫 (鍔の歴史)



瓢箪鯰図目貫 無銘後藤顕乗

 栄乗でも紹介した、禅に通じた画題の典型でもある瓢箪鯰。大鯰にまたがり真剣な眼差しで瓢箪を押さえつける武人の姿は滑稽でもある。確かに、如拙の描いた瓢箪鯰の絵に賛を記した僧の中には、真剣に取り組んでいる(真剣を装っている)者があれば、無理無理と簡単に言い放つ者など様々。後藤各代が同様にこの画題に取り組んでいるところをみると、多くの武人もこの図に惹かれていたと思われる。
 後藤顕乗は、後藤各代の中でも特に技術が高いことで評価されている。この目貫でも彫口深く図柄の各部がくっきりとしており、人物の表情も豊か。

瓢箪鯰図小柄 後藤栄乗 Eijo-Goto Kozuka

2012-07-07 | 鍔の歴史
瓢箪鯰図小柄 (鍔の歴史)


瓢箪鯰図小柄 無銘後藤栄乗

 有銘な画題であり、多くの金工が様々な意匠構成で手がけている。そもそもは足利将軍が出した禅の公案、ぬめりとした鯰を同様にすべすべした丸みのある瓢箪で取り押さえるには・・・という、即ち頓智を試すような意味合いのある質問であり、絵師如拙がこの場面を描き、同時代の三十一人の僧が問いに答える形式で賛を書き添えている墨絵の遺例がある。後の金工もこれに倣って自らに問いかけ、答えたものであろう。
 赤銅魚子地をふっくらとした高彫で大きく鯰を描き、瓢箪も大きく判り易く描いている。頗る面白い作品である。□

葵紋図三所物 後藤栄乗 Eijo-Goto Mitokoromono

2012-07-06 | 鍔の歴史
葵紋図三所物 (鍔の歴史)



葵紋図三所物 無銘 後藤栄乗

 時代の上がる葵紋の例。比較のために江戸時代中期以降の製作になる葵紋を下に添える。作域や作位の高低はあるが、それらを無視し、意匠そのものの違いを観察してほしい。


江戸時代中期以降の三葉葵紋の例

烏図目貫 後藤栄乗 Eijo-Goto Menuki

2012-07-05 | 鍔の歴史
烏図目貫 (鐔の歴史)



烏図目貫 無銘 後藤栄乗

 今でこそ嫌われ者の烏だが、その昔はどのように評価されていたのであろうか。太古の時代の例では、中国の影響を受けたものであろう三本足の烏が描かれた古墳が見つかっている。兎と烏を対に描いた烏兎図には陰陽の意味があり、烏は太陽を意味している。比較的知能が高い鳥であることは良く知られている。この意識は古くからあったのであろう。この目貫は打ち出し高彫で、際端を絞った造り込み。厚さは戦国時代の作に比較して厚手だが、総体にふっくらとしていることがわかる。


烏図小柄 後栄乗 光孝 

2012-07-04 | 鍔の歴史
烏図小柄 (鍔の歴史)



烏図小柄 銘 後栄乗 光孝(花押)

 赤銅魚子地に高彫のみで表わした、黒一色の重厚感のある作。一切の色金を用いないが故に彫刻それ自体が鑑賞の要となる。背後の河の流れは曲線の浮彫で文様表現されている。霞むような山並みも文様風。後藤家には間々烏の図がある。水浴びをする烏、と思えば水に溺れる烏もある。後者は「鵜の真似をする烏水に溺れる」に他ならないが、現実に水浴びをする烏もいるのである。

張果老図小柄 栄乗作光孝 Eijo-Goto Kozuka

2012-07-03 | 鍔の歴史
張果老図小柄 (鐔の歴史)



張果老図小柄 銘 栄乗作光孝(花押) 

町彫り金工に多々見られる仙人図は、後藤家でも描かれたようだ。紙の驢馬を持ち歩き、瓢箪に入れられた薬をこれにかけると、たちまち紙の馬は実在の驢馬になる。長旅をする際には驢馬を出し、必要のないときには紙片として懐に入れておく。この仙人が張果老。なんと合理的なのりものであろうか、仙人という意識から発達し、理想を追求した一つの形だ。
 驢馬の表現を眺めてみたい。初代祐乗の馬や鹿図と比較しても良いだろう。初代の鹿の斑文はふっくらとした量感が感じられるも、馬のように平滑に仕上げられている。顔などの表情は馬とは異なる優しさが漂うようにもみえる。一方、張果老の姿がいい。ふっくらとした高彫による立体感がすばらしく、鏨が効いてくっきりとした画面となっている。これに動きが加わっている。

幔幕図小柄 後藤栄乗 Eijo-Goto Kozuka

2012-07-02 | 鍔の歴史
幔幕図小柄 (鍔の歴史)


幔幕図小柄 無銘 後藤栄乗

 桃山時代らしい華やかさが突き詰められた作と言えば、このような小柄のこと。金の魚子地に金地高彫の紋を据紋している。ただ見とれるばかり。松樹に幔幕が掛けられ、笹が下草として描かれ、藤も奇麗に咲きかかっている。裏面の資料が失われているので、御容赦ねがいたい。

剣図小柄 栄乗作 光孝 Eijo-Goto Kozuka

2012-07-01 | 鍔の歴史
剣図小柄 (鍔の歴史)



剣図小柄 銘 栄乗作 光孝(花押)

 桃山時代らしい華やかさと力強さが示された作。剣巻龍とは異なる荘厳なる趣が感じられる。銀地を巧みに配色し、飾り紐であろうか、剣に巻きつくところは龍との組み合わせを想わせるが、明らかに異なる。装飾性は雅ではなく、神仏合体した密教の神々と通じ合うそれ。不動明王信仰以前にまで遡るような意識が窺える。裏板を斜めに構成して金と赤銅の削継としているところも桃山期以降の流行。