海近旅館 柏井壽 著 小学館
海に近くて景色は素晴らしいけれど、サービスや施設がいまいちの静岡県の伊東の川奈のある老舗旅館のお話でした。父と兄と妹美咲たちと少ない従業員で切り盛りするような小さな旅館が舞台でした。前女将の母の亡きあとに若女将として東京から戻ってきて頑張る美咲を中心に、旅館に泊まりにきたお客さんと家族やその仲間たちと海近旅館を一生懸命経営していく姿が描かれていました。美咲のお母さんでもっていたと言っても過言ではない海近旅館でしたが、宮大工見習いの冨久山、兄が連れてきたサーファーの職人智也たちやそのほかのお客さんたちに助けられながら、前の女将である母が「お客様はけっして神様ではありません。でも、ときどき神様がお客さまになってお越しになることはあります。」と常々言葉を発していたように、海近旅館のお客さんたちが、海近旅館と美咲たちの神様となってやってきて旅館を盛り上げてくれて、みんなに元気をももたらしてくれたというお話でした。旅をしていると大きな旅館、小さな旅館、リゾート旅館などたくさんの旅館のお世話になりますが、旅館の経営の大変さはこの小説を読むと、再認識させられます。何度か訪れる旅先で、かつてお世話になった旅館が経営されていなかったり、安い値段が売りの旅館に変貌していたのをよく見かけました。この本の中でも、経営難から旅館を手離し、屋代リゾートというチェーン旅館に様変わりしている話も出てきてました。海近旅館は温泉がでないし、一品一品出されるようなお料理ではないのですが、おもてなしの心をしっかりと提供してくれるという信頼感を提供してくれる居心地がいい旅館だと思いました。宿の施設が豪華ですべてに素晴らしい旅館が多くの人々にもてはやされ、口コミやSNSなどのサイトであっという間に多くの人々に情報が流れるような現代の日本の現状なのですが、日本中にはまだこのようなおもてしの心を大切にされ、目立たないけれど、居心地のいい宿が健在なはずです。施設が立派であっても、居心地がよくなければその旅館の印象はよくないという結果を利用した人に印象づけてしまうことも多々あります。旅の形は人それぞれ、海近旅館のような旅館に泊まって居心地のいい旅をしてみるのもおつなものでしょうと想像しながら、読み終えました。本の表紙が素敵な絵だったので、読んでみたいなあと思って、図書館で予約して、借りて読んだ本でした。