金子勝著「原発は火力より高い」岩波ブクレット No・880
本書の特徴は、二つある。第一に「コスト」の側面から論じていること。第二に、「原発」を「不良債権」と定義していることである。
「原子力発電は、安い」と言われてきた。しかし、著者の概算では、原発は決して安価なエネルギーではない。石油火力の「コスト」は9・2円/kWh。天然ガスの「コスト」は10・7円/kWh。
しかし、原発の「コスト」は、島根原発が、31・5円/kWh。玄海4号機が13・4円/kWh。事故があった場合は、その賠償費用を含めるし、地方自治体への交付金、廃炉の費用も含めるから、それ以上高くなる。原発の「コスト」はかなり高い。金子は次のように言う。
「政府そしてメディアが、いまだに原発が飛びぬけて易いエネルギーであるかのように喧伝しているのは、ちょうどメルトダウン隠しの報道を続けたり、大飯原発再稼働に際して電力不足のキャンペーンを繰り広げたしてきたのと本質は同じです。一部を除く主要メディアは、『大本営発表』を繰り返しているかのようです。」
また、電力会社の財務内容は、急激に悪化している。これについて金子は、次のように言う。
「いまや電力八社の経常損失は1兆5942億円に達し、原発の比重が高い電力会社ほど赤字が膨らんでいます。事態の展開も、不良債権問題当時とそっくりです。」
原発の維持が困難な以上、廃炉が問題となるが、著者は、そこにも言及している。
超党派の「原発ゼロの会」によれば、敦賀、美浜、柏崎刈羽など、28の原発の、即時廃炉が必要であるとする。「コスト」から考えれば、もっと増える可能性もある。
そこで金子は、二つの提言をする。
1、東京電力の賠償スキームの見直しが、6項目。
2、原発を電力会社から切り離すという提言が、5項目。
そして最後に金子は、未来のエネルギーに」ついて、次の様に言う。
「集中メインフレーム」から、「地域分散ネットワーク」への転換。これを金子は、「スーパーマーケット」の大量仕入れ、大量販売と、「コンビニ」の「定価で売っても、在庫をほとんど抱えない」という販売方法との比較を持ち出して、提言する。
「コスト」の計算、「財務内容の検討」「二つの提言」「未来像」があるだけに、説得力のあるものだ。一読の価値はある。
また、TPP(環太平洋経済連携協定)についても「集中メインフレーム」であるとして、反対論を展開している。これもまた、未来社会への著者の提言の一つとして、受け取ってよいだろう。