以前の記事にも書いたが、斎藤茂吉の「汎神論的短歌」は「赤光」の時期から人間の心理を詠うのと叙景歌が多い。だからその時代時代の社会現象を詠うことはまれだった。戦時中の「映像短歌」は別にしてである。本気で戦争の短歌を詠んだとは岡井隆の説だが、僕は茂吉の資質(山岳信仰に熱心なこと)、ナショナリズム、時代、茂吉の気質(「自律神経過敏」斉藤茂太による)が複合的に作用していると思う。
特にこの気質は、平時には「深い自己凝視」へ向かうが、戦争が始まるや「戦意高揚の『ための短歌』」に陥ったと僕は考えている。
そうした気質・資質は伊藤左千夫・長塚節に見抜かれていて、「理想派」(伊藤左千夫)、「君は写生の歌はにがてなようだな」(長塚節)と言われている。
それでも茂吉の生きた時代を窺わせる作品もある。
・隣室に人は死ねどもひたぶるに箒ぐさの実食いたかりけり・「赤光」
茂吉病床の歌だが、幼いころは熱が出ても医者に行かず箒ぐさの実を食べたという。箒ぐさには利尿作用があるそうだが、それが薬がわりであり、母に手をひかれて近在の地蔵尊に病気快癒を祈りにいったという。そして余程重態のときは、峠ごえして仙台まで出たそうだ。貧しかったのだ。
・ふゆ空に虹の立つこそやさしけれ角兵衛童子坂のぼりつつ・「あらたま」
角兵衛獅子は子供の大道芸で、子供が芸を仕込まれて通りで「とんぼがえり」などをして、通行人に金を払ってもらうものだ。今でいえば労働基準法違反の児童労働だが、当時は農家の口減らしなどのためにこうした子等も多かった
世界同時株安・不況・財政危機からの出口が見えない。そこで世界の主要国が集まって打開策を協議している。
経済学説では、
・ある学者曰く「好景気・不景気の循環は繰り返すものだから、『神の手』に任せるべきだ。」
・またある学者曰く、「赤字国債を発行して公共工事に投資して、景気が回復したらそこで、国債を償還すればよい。」
・またある学者曰く、「生産の社会的性格と利潤の私的取得の矛盾が原因だ。」
だが今の状態はそのように単純ではない。最後の学者の言い方を借りれば、
「生産がグローバル化しているのに、国家財政は各国単位というねじれに原因がある。」
とでもいおうか。とにかく容易ならない状態である。
円高、ドル安・ユーロ安は、日本の輸出産業には不利だが、欧米諸国の輸出産業には有利である。だから円高容認が続いていたが、先の『 G 20 』では「円高、ユーロ安・ドル安の過度の状態解消にあらゆる手段を尽くす」との声明が出された。
「円高が続くと震災復興が困難になり、日本経済が沈没する」と日本の首相・財務相が強調したそうだ。さすがのドル・ユーロ圏の国々も日本経済が沈没するのは困るらしい。
榊原元大蔵次官の書いた『世界恐慌の足音が聞こえる』というタイトルの本が売れるほどだから、深刻な状態なのだろう。岡井隆の言う「社会や国家のありかたが根本から変わる時代」が近づいているということかも知れない。
折しもギリシャんでの激しいデモ、ニューヨークのウォール街・ワシントンでの集会やデモの報道が飛び込んできた。中国の暴動の情報はこれらに先んじて世界を駆け巡った。中東の一連の動乱も連鎖的に起こっている。「経済的格差の世界的広がり」と世界同時株安と同時不況。経済活動が国境を越えてかくも広がっているのは、前述の経済学者も大方の予想をはるかに超えている。
原発の汚染物質の最終処理同様、人類史にかつてなかったことが、立て続けに起こっているのだ。鍵はネット上の「Facebook」。これも10年前には考えられなかった事態だ。
なぜなら「アラブの春」はFacebookで呼びかけられたものだから。