著者の長屋のり子は北海道在住。小樽の「白鳥番屋」(しらとり ばんや)を管理している。数年前の「北の聲」の公演に参加したときにお世話になった。書籍も頂いて返礼を出そうとしたが住所を聞きそびれた。今回縁があって住所を教えられ僕の歌集『聲の力』を送った。その返礼に届いたのが本書だ。
版元は「アニマアニマ協会」。アニマとは万物の命、魂を言う。アニミズムのアニマだ。本書は文庫本だが36編の詩と「あとがきにかえて」の作品全37編の作品が収録されている。コンパクトだが読みでがある。
37編の作品は二つに大別される。前半と後半で主題が変わる。
前半。「春の海に満ちて」から「無い」までの22編。これは象徴詩と言っていいだろう。花、昆虫、自然現象に仮託されて透明感のある美しい世界が表現される。やわらかい言葉遣い、ここちよいリズム、そこに皮膚感覚で捉えた抒情が加わる。声に出して読んで心地よい。黙読しても作者の声が聞こえるようだ。大自然の世界のアニマを表現している。
後半。「冬の旅 スタッカート」から「夏の森ーあとがきにかえて」までの15編。やや長い作品が続く。「帰郷」というタイトルの作品があるように、作者の自実生活に基づく作品がならぶ。だがそれはリアリズムではない。作者をめぐる人間のアニマだ。
それでいて一冊がちぐはぐになっていないのは、「自然界のアニマ」「身近な人間のアニマ」を表現しているからだ。この一冊が言葉によるアニミズムの世界を構築している。
この詩集は天童大人プロデュース・詩人の聲」にかけて完成した歌集『聲の力』の返礼として送られてきた。「一番喜んだのは天童さんでしょう」という手紙が添えられていた。
短歌に携わる人でアニミズムに言及する人にはこの詩集と天童大人、原田道子の詩集の一読を勧めたい。