本書の正式名は『アメリカも批准できないTPPの内容はこうだった!』という。著者の山田正彦は元農林水産大臣。労働厚生大臣の経験もある。
TPPは英文で6300ページに及ぶ。どこの国でも全文を母国語に翻訳している。しかし日本政府は1800ページしか訳していない。しかも国会議員の要請にも黒塗りの資料を出すだけ。山田はTPPの問題に長年取り組んできた。そしてTPPの文書の分析チームを作り、内容を明らかにした。
アメリカでTPPが批准できないのは、環境団体、労働組合の反対が根強いからだ。TPPには自由貿易の障壁だと多国籍企業が国を訴えるISD条項というものがある。NAFTA(北米自由貿易協定)や二国間貿易協定にも盛り込まれている。そこですでにアメリカ国内の勤労者の賃金が低下し、雇用が失われ、食の安全が脅かされている。
本書は分野別に問題点をあげている。 農業、漁業、医療、公共事業と公共サービス、食の安全。
これらに共通しているのはアメリカの多国籍企業の利益のために、このすべての分野の産業に打撃が与えられ,国内の制度が破壊されるということだ。
雇用を例にとろう。労働力の移動が自由になるために、発展途上国から安い労働力がはいってくる。労賃の相場がさがる。そこで大幅な賃下げが起こる。移民が入るのが問題なのではない。賃金がさがるのが問題なのだ。雇用も失われる。
産業分野。公的サービスを含む、全ての産業に多国籍企業が参入する。農業の補助金もTPPに違反となる。アメリカは農業に莫大な補助金をだしている。これは問題にされない。多国籍企業の経営だからだ。ISD条項による訴えは、裁判官が裁くのではない。アメリカの多国籍企業関連の弁護士、ニューヨークのウォール街関係の弁護士が裁定にあたる。ISD条項を使った係争でアメリカの多国籍企業が敗訴したことはない。
だからTPPは世界の1パーセントのアメリカの多国籍企業が利益を独占する管理貿易協定なのだ。
日本政府が説明責任を果たさない以上、自分で調べるほかはない。TPPは年齢、性別、国籍、職業に関係なく日本に住むすべての人たちの生活を破壊する、と本書は警鐘を鳴らしている。
株式会社サイゾー刊 1500円
