山谷英雄著 歌集『寒流』 東奥日報社
「運河の会」の副代表(現代表)の第四歌集。第三歌集の『lilasリラ』は北国の大地を耕す開拓農民を思わせる歌集だった。その大きな歌柄は今回も変わらない。
・たくわへしおのれの闇に散らしめて椿は最後の花終はりたり
・玄関の泥人形の仏にも日々切実にわが祈りあり
・ベランダに吊るし干さるる大根も時の恵みを積みてゐるべし
またユーモアのある歌もある。
・足跡の大と小とは楽しげに寄りつつゆけり新雪の朝
これは親子の足跡だろうか。ほのぼのと温かい。
今回は病中詠もある。
・忙しきオフィスの移転をまじへつつ五月終はりぬ病む身は懈く
・郭公のまた鳴きはじめ病むわれに眠りうながす声きこえくる
これらは切実な心情が歌われている。
だが一方、言葉遊びの歌もある。
・行軍の蟻の直進8888888888
・8といふかたちの蟻は行軍す8888888
・ハチハチハチハチハチハチハチ巣を護る蟻の群れ羽火花のごとし
・四四四四四四四四満月に山あふれでて海に向く蟹
これは視覚の効果を狙った作品だが、収録数が多すぎると思う。「こういう歌があっていいが」、茂吉以来の編年体で収録されているので、あまりにも目立ってしまう。歌集のあちこちにちりばめる構成をすればよかっただろう。遊び心は必要だが度が過ぎると歌集が台無しになる。
また病中詠にも気になる作品がある。
・身体は内ふかく病みわが意思をもはや支ふる器にあらず
・堕ちるところまで堕ちるらし病み痩せて顔貌その他たちまちに老ゆ
これらは病人の愚痴と隣あわせだ。健康を取り戻したとき新しい境地が開けるだろう。