「ヒットラーとナチズム」 白水社刊 クセジュ文庫
クロード・ダヴィド著(長谷川公昭 訳)
歴史上最も残虐と言っていい、ナチズム。「狂気」と言われる。それは大量のユダヤ人を虐殺し、ヨーロッパに戦争を燃え上がらせた。現代では、ナチズムもヒットラーも「狂気」と言われるが、当時のドイツでは、圧倒的支持を受けていた。しかも当時最も民主的と言われた「ワイマール共和国」で生まれ育った。なぜだろうか。
本書は、その問いに一つの答えを提示する。
1、ヒットラー台頭の背景には、ドイツの経済状態があった。第一次世界大戦で敗れたドイツは、ベルサイユ条約による、巨額な賠償金の債務を負っていた。それがドイツ経済の足かせになっていた。街には失業者があふれ、ドイツ人は完全に自信を失っていた。ナチスは「ベルサイユ条約」からの離脱を公約に掲げた。当時の「戦後レジームからの脱却」である。
2、第二に、ドイツ人の自信の喪失があった。ナチスは「アーリア人(ドイツ人)こそ最も優秀な民族」と宣伝し、支持を集めた。当時の「ドイツを取り戻す」である。この人種主義がユダヤ人の大量虐殺につながった。
ヒットラーは、ナチスを率いて、ミュンヘンで一揆を起こし失敗した。これはイタリアファシスト党の「ローマ進軍」に刺激されたものだった。ヒットラーは有罪となり、獄中生活を送った。釈放後、ヒットラーとナチスは表面上穏健な態度をとった。
しかし、当時のドイツの抱える諸問題は解決にほど遠かった。「ワイマール共和国」への信頼が揺らぎ、ロシア革命に対抗して、各地に民兵組織が成立していた。賠償金不払いの担保として、フランスがドイツに隣接する地域を占領し、ドイツ人のナショナリズムも高まった。
こういう状況下で、ナチスは有力な「民兵組織」「ナショナリスト組織」となっていった。
ナチス・ドイツは、「ベルサイユ体制からの脱却」「ドイツ民族の優秀さ」「失業問題の解決」を掲げて支持を伸ばして行った。
ナチスの強固な支持を支えたのは、失業問題の解決だった。ヒットラーは、政治犯などの収容されている強制収容所を、安価な労働力として使い、国際競争力をつけて、輸出を伸ばした。ドイツ経済は、軍需産業を中心に景気の回復を達成した。
また東方への侵略、植民によって、市場を確保し、軍需産業を伸長させた。これがナチスへの、強固な支持となった。
排外主義、軍国主義、人種差別が、ドイツ経済を「立て直した」のだ。しかしこれは、ドイツ一国の利益であり、国際的孤立を招いた。この国際的孤立を免れるために、ナチスは「日独伊三国軍事同盟」を祖国防衛の名で結んだ。
しかし、「ファシズム陣営」は、第二次大戦で敗北した。(イタリア・ファシズム、ドイツ・ナチズム、日本・軍国主義、を広い意味での「ファシズム陣営」と呼べるだろう。)
どうだろう。この事実と、現代の日本の共通点を見出すのは、それほど難しくはなかろう。一国の経済の回復が、排外主義や、軍国主義と結びつくと、国を破滅させる。
