20世紀末から世界の独占資本は多国籍企業の様相を呈してきた。多国籍企業とは生産拠点も投資家である株主も複数の国にまたがっている。世界的な独占資本は多国籍になりつつある。ロッキード事件で知られるようになったが、日本でもUNIQLOや大手自動車メーカーなどは多国籍企業化している。
多国籍企業は国境をまたいで投資をし生産し、労働力を集める。日本企業が海外に生産拠点を移し始め「産業の空洞化」が問題視されたころ日本の企業の多国籍企業化が本格的になった。多国籍企業は、多国籍なるがゆえに利潤のためには国境が障壁になる。
そこで様々な貿易協定が締結されてきた。WTO(世界貿易機構)、NAFTA(北米自由貿易協定)、米韓FTA(米韓自由貿易協定)など。自由貿易を称しているが事実上の多国籍企業による独占的管理貿易だ。
自由貿易協定が海外で起こした実例をあげる。
メキシコのトウモロコシ農業はアメリカからの大量な安いトウモロコシが入ってきて壊滅した。利益をあげたのは農産物を企業的経営で生産するアメリカの多国籍企業だ。
離農したメキシコの農民が安い労働力としてアメリカに流入して、アメリカの労働者の賃金は半減、失業率が増大した。
エジプトは最低賃金を上げようとして、アメリカの多国籍企業から予定した利益が得られないとして訴えられ、最低賃金を上げられず、アメリカの多国籍企業に多額の賠償金をしはらった。
ボリビアでは水道事業にフランスの多国籍企業が参入し、水道料金が生活を圧迫するほど値上がりし、人々は雨水を貯めてしのいでいる。ここで利益をあげているのはフランスの多国籍企業だ。
韓国はアメリカからの畜産品が増大して、畜産業がほぼ壊滅。潜在的失業率があがった。
イギリスではEUの規定に漁業を担保しなかったためにイギリス沿岸にノルウェイの多国籍企業が参入し、イギリスの沿岸漁業は壊滅した。
なぜこんなことが起こるのか。国内産業を保護する関税というものがある。国産のウイスキーが1000円、スコッチウイスキーが1000円としたらどちらを買うか。スコッチウイスキーが争って買われ、国産のウイスキーは売れない。サントリーほどの大企業でも倒産するだろう。だから輸入品に関税をかけて価格を高くするのだ。
自由貿易協定は基本的にこの関税を撤廃する。関税は自由貿易に反するというのだ。国内産業はひとたまりもない。
また自由貿易協定にはISD条項というものがある。自由貿易の阻害要因があると言って多国籍企業が相手国を訴えられるという条項だ。ここでは健康保険への国の補助金も多国籍企業の保険会社との競争が公平でないと訴えられるだろう。ISD条項によって裁定を下すのは、多国籍企業の顧問弁護士やニューヨークのウォール街のロビイストの弁護士だ。
最高裁判所の判断が覆されることもある。ISD条項の最低でアメリカの多国籍企業が負けた例はいまだかつてない。
この自由貿易協定が上手く機能していないのでより多くの国を加盟させようというのがTPPだ。世界でこのグローバリズムと勤労市民との、和解できない矛盾が広がっている。
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