タイトルの『旅ゆくヒトガタ』。ヒトガタとは人間のことである。
著者の田中健太郎は、繰り返しここに収録されたエッセイを「詩人の聲」で聲に載せた。そのほとんどを僕は肉声で聞いた。
エッセイのテーマは多岐に渡る。「詩▪詩人」「歌▪音楽」「映像▪文楽」
「美術▪文芸」。著者の博学なのがわかる。博学というより、好奇心が旺盛なのだ。
以前著者の詩集『犬釘』をこのブログで紹介したことがあるが、作品の根底に、こうした旺盛な好奇心があるのだろう。
歌人の佐藤佐太郎は「短歌の本だけ読んでいては駄目だ」という主旨のことを言っているし、正岡子規も斎藤茂吉も好奇心が旺盛だった。これは詩人、歌人、俳人でもある高橋睦郎にも共通する。
田中はこのエッセイを「ビル新聞」というビルメンテナンスの業界紙に連載した。「私の1200字」というタイトルで、1200字と言えば400字づめ原稿用紙3枚だ。字数は多くない。少ない字数で内容の濃いエッセイが書けると改めて考えさせられた。
響文社刊「詩人の聲叢書」1000円