私が山田泉さんのファンになったのは、
「いのちの授業」ではありません。
2002年の『草の根通信』に連載された
「山ちゃんの保健室日記」を読んで以来なので、
けっこう古い?ファンの一人です。
松下竜一さんが亡くなり、草の根通信が届かなくなって、
もう4年が過ぎました。
山田泉さんの2冊の本では読めない、宝物のような文章を紹介します。
無断転載ですが、山ちゃんも、松下センセも
笑って許してくれると思います。
≪山ちゃんの保健室日記(連載6)
いい校長 ダメな校長 その1≫
いつだったか、教育委員会のおじさんからこんなことを言われたことがある。
「今どき、山ちゃんみたいな人を受け入れることができる校長って、
そんなにいないんだから、こんどの校長とは仲良くやってよね」
そーゆーふうに言われると、あたしってケンカばっかりしている
ただのワガママなおばさんみたいだけど、
校長との出会いにはわりと恵まれているほうなんだ。
[あたたかな北村校長さん]
◇悪ガキのたまり場で
彼はあたたかかったなあ。
あの頃、中学校は派手に荒れていた。
一晩に窓ガラスが数十枚割られたり、
シンナー吸ってラリった子どもが廊下をフラフラ歩いていたり、
ケンカして殴られたケガ人が次々と保健室に運ばれてきたり…。
実際のクラスは6組までなので、
ワルガキのたまり場の保健室は3年7組と呼ばれていた。
それまでずーっと小学校勤務だったあたしには、
毎日がびっくりすることの連続。
やさしい保健室のおばさんも時には、
ワルガキの態度にキレてしまい、とっくみあいのケンカをして、
ベッドのそばの衝立をぶっこわしてしまうこともあった。
そんな時、北村校長さんは、タイミング良く保健室にやってきて、
ワルガキになにやら声をかけ、
「おまえたち、たまには校長室にも遊びに来いや」
と静かに微笑んでいたっけ。
◇ひとことに支えられ
どんなに事件が続いても子どもたちとのつき合いはおもしろかったけど、
よい子(?)の保護者から「こんな保健室じゃ、具合の悪い子が休めません!
どうなってるんですか!」って怒鳴られた時は、落ち込んだよ。
教室に入らない(入れない)子どもたちを追い出したら
町をウロウロして悪さするし、
だからといって一人の養護教諭が保健室でやれることなんて限られてるし…
と職員室でしょんぼりしていたら、校長さんはこう言った。
「保健室のセンセイは、あなたのような明るい人がいい」
このひとことが、あたしを支えてくれたもんね!
◇校長からレモンパフェ
こんなこともあった。
いつだったか、ワルガキをひとまとめにしてコンサートに連れて行ったんだ。
事前にセンセイたちにしゃべると、
「夜、あの子たちを連れ回すなんてやめといたほうがいい。
しかもテスト前ですよ」と反対されそうだったから、
友だちと作戦練ってコッソリ決行したの。
テスト前だからって勉強する連中じゃないし、
ストレスたまってんだから発散させなきゃねぇ。
もちろん、ワルガキたちは、喜んだのなんのって!
翌日、校長室に行って、「一緒に夜遊びしてきました」と話してみたら、
校長さんは立ち上がってあたしの手を握り、
「ありがとうございます」と喜んでくれた。
そして、ポケットから一万円札を出し、
「これでお茶でも飲みに行って下さい。
疲れている先生もいるので誘って気分転換して下さい」と言った。
さっそく、その日は早く学校を抜け出して、
青年部の連中を誘ってレモンパフェをおなかいっぱい食べたもんねー。
◇学校もあたたかに
そんな校長さんが、一度だけ大きな声で怒鳴っている姿を見たことがある。
校長室に呼び出され、叱られていたのは江藤先生だった。
江藤先生はカマキリに似ていて、めったに笑わないこわーい人。
どーしたらここまで子どもに嫌われるの?
というくらい困ったおじさんだった。
たとえば不登校のBくん。
久しぶりに学校にやってきたその日に、
彼から怒鳴られ二度と学校へは来なかった。
あの日、何をお説教していたのかは知らないけれど、
「あなたはそれでも教師ですか!」と爆発していた校長さんの姿は
カッコヨカッタな。
退職して間もなくガンに侵され、あっという間に亡くなった北村校長さん。
あたしは先生のこと忘れないよ。
自分の意見を決して押し付けることなく、
いつもやさしいまなざしで子どもたちに接していた校長さん。
「うちに帰ったら寂しい子ばかりです。せめて学校には来てもらわんと」
そんな姿勢が教職員ひとりひとりに伝わり、
いつのまにか学校はあたたかい雰囲気に変わっていった。(つづく)
【草の根通信 2003年1月号】より
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