友だち障害、あるいは恋愛障害 (5)
「見えない・聞こえない」人を、
この社会はどのように扱っているか。
「広辞苑」には「盲ろう」という「言葉」が載っていません。
「広辞苑」だけではありません。
身体障害者福祉法にも、「盲ろう」という言葉はありません。
だから、国連の障害者権利条約にある「deafblind」という言葉も、
日本語には訳されません。
この社会は、福島さんたちを、
「いない者」として扱ったままです。
コミュニケーションがないのは、
『コミュニオンがないから』です。
(ほんの少し前まで、普通学級にいる障害児は0人、
「いない」ことになっていました。)
コミュニケーションは、まず「いること」から始まります。
「いること」
「一緒にいること」
「同じ時代にいること」
「同じ地上にいること」
それは、「障害のあるふつうの子ども」の親や兄弟が
ふつうにやってきたことでした。
幼稚園、保育園で、子どもたちが
ふつうにやってきたことでした。
だから、学校でもそれを求めるのは、
ごく当たり前のことでした。
そうした「当たり前」の空気の中にいて、はじめて、
見えない子も、聞こえない子も、
歩けない子も、しゃべらない子も、
「障害のあるふつうの子ども」の「ふつう」を
当たり前に感じることができるのです。
竜くんの笑顔は、まさにその笑顔だったのだと
思い出されます。
☆ ☆ ☆ ☆
福島さんは、いわゆる中途障害で、
子どものころは普通にコミュニケーションができました。
彼に、「能力がない」のではありませんでした。
だから、彼が視力をなくし、そして聴力をなくしたとき、
そこで同時に「コミュニケーション能力」を
失くしたのではないと分かります。
失くしたのは、コミュニケーション「手段・スキル」でした。
そのとき、彼の家族や、周囲の人は、
「視力と聴力」を失くしていません。
だから、「遭難」したのは、
福島さん一人のように見えます。
でも、やはり周囲の人たちも「遭難」したのです。
福島さんとの間で通じていた
コミュニケーションスキルをなくしてしまったのですから、
遭難したのは「お互い」でした。
そこで、ふと、「ぼくが救援隊だ」
という声が聞こえます。
☆ ☆ ☆ ☆
サンテグジュペリの「人間の土地」。
主人公は、二人乗りの飛行機で
サハラ砂漠の真ん中に不時着します。
【ぼくらは、できるだけのことをした。
ほとんど飲まずに、六十キロ。
今後、ぼくらはもう飲むことはない。
ぼくらがもし長く待てないとしても、
それはぼくらの罪だろうか!
飲むものさえあったら、ぼくらはおとなしく、
ふくべを吸いながらここでじっと待ったはずだ。
…プレヴォーは泣いている。
ぼくは彼の肩をたたく。
ぼくが言う。彼をなぐさめようと、
「だめならだめで仕方がないさ……」
彼がぼくに答える。
「ぼくが泣いているのは、
自分のことやなんかじゃないよ……」
≪自分のことやなんかじゃないよ……≫
そうだ、そうなのだ、
耐えがたいのはじつはこれだ。
待っていてくれる、あの数々の目が見えるたび、
ぼくは火傷のような痛さを感じる。
すぐさま起き上がって、
まっしぐらに前方へ走りだしたい衝動に駆られる。
彼方(むこう)で人々が
助けてくれと叫んでいるのだ、
人々が難破しかけているのだ!
何だというので、沈みかけている人々を助けに、
間に合ううちに、駆けつけるじゃまをする
さまざまの鎖が、こうまで多くあるのか?
なぜぼくらの焚火が、ぼくらの叫びを、
世界の果てまで伝えてくれないのか?
我慢しろ……ぼくらが駆けつけてやる!
……ぼくらのほうから駆けつけてやる!
ぼくらこそは救援隊だ!】
☆ ☆ ☆ ☆
「ぼくが救援隊だ、ぼくがみんなを助けるんだ」
そう言って、砂漠の真ん中から、
私たちを助けるためにやってくる子どもたち。
わたしの目には、今まで出会ってきた
たくさんの子どもたちの顔が浮かびます。
竜くんや、やっちゃんやこうちゃんが、
一方的に「障害児」とか「自閉症」と名づけられた
ひとりぼっちの場所から、
みんなを助けにくる姿がみえます。
彼らを、分けよう、分けようとするこの社会に、
砂漠の向こうから、私たちを助けるために、
やってきた子どもたちの声が聞こえます。
「あそぼ」
「みんなといっしょに、あそびにきたよ」
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yo
ishizaki
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