未来へのことば (その2)
「普通小学校での思い出も、遠い過去のような気がしていました。」
これまでの東田さんの本から伝わってくるものは、「普通小学校での思い出が遠い過去」である場所から、彼が見たり感じたりしたものだと、私は思ってきました。
だから、本屋さんで立ち読みすることはあっても、そのまま棚に戻してしまったのです。
彼の住所が同じ県でもあり、彼の経験した「普通学級」が彼を追いつめ、追い出す場所でしかなかった現実に、勝手に後ろめたさを感じたりもしました。
さて、いろいろ書きたいのですが、とりあえず後半を紹介します。
◇
特別支援学校には、僕と同じ自閉症の子供たちもたくさんいました。
町を歩いていても、めったに自閉症者に会うことはなかったし、地域の小学校にも自閉症の子供はいなかったのに、この特別支援学校には、ひと目で自閉症だとわかる子供が何十人も通っていたのです。
それが、何を意味しているのか、その頃の僕にはわかりませんでしたが、僕のような子は、この学校でなければいけなかったのだと思い知らされたような気がしました。
正直、悲しくもなければ、寂しくもありませんでした。
これが僕の運命なのだと思いました。
…それなのに僕は、中学部卒業後、通信制高校に進学し、今は作業所にも行かず、作家として活動しています。
その理由は、僕の心に、大きな変化が起きたせいです。
僕は、自分の人生を人に選択してもらっているのではないか、と考えるようになったのです。
僕が自閉症であることと、自分の人生をどう生きるのかということは、別の問題ではないのか。
本当にやりたいことは何だろうと自問自答するようになりました。
僕は、誰のために特別支援学校の高等部や作業所に行こうとしているのか、それが本当に自分のためなら、なぜ嬉しく感じないのだろう。
特別支援学校では、多くのことを学びました。
自閉症者としての自分を取り戻せたのは、この学校のおかげです。
しかし、ここで一体、何をしているのだろうと思う自分がいたのも確かなのです。
僕は、逃げているのではないか。
誰かにとって必要な場所が、僕にとっても必要な場所ではなかったことが、初めてわかりました。
僕は、普通学級にいたころのことを思い出しました。
ひとりでできないことが多く辛い思いもしましたが、勉強も運動も、能力の限界まで、頑張っていました。
結局は、努力し続けることに疲れてしまいましたが、そこには確かに、同世代の子供たちと一緒に泣き、笑い、怒っていた僕がいたのです。
普通学級は、この社会の中で生きるとはどういうことかを教えてくれる貴重な場所でした。
僕は小学生の頃、そのことに気付けなかった自分に対して、後悔の気持ちでいっぱいになりました。
学校は、いつかは卒業しなければいけない場所です。
それなのに、どうして障害のある子を、分けて教育しようとするのでしょう。
誰の目にもふれていない僕たちを理解してほしいと望むこと自体、難しいような気がします。
僕は、普通の学校と特別支援学校の両方に通ってみて、それぞれいいところがあることがわかりました。
けれども、それは障害のある子だけ別に教育する理由にはならないと思います。
特別支援学校でやれることが、どうして普通の学校でできないのか不思議でなりません。
同じ勉強をすることは無理かもしれませんが、一緒の学校で学ぶことはできると思います。
普通の学校では、人権のことや、共生についても学びました。
それなのに、学校はみんな一緒に生きることを実践していません。
障害者にとって必要なのは、できないことの練習だけではないと思います。
本当に必要なのは、この社会の中で、自分の生きる意味を探すことではないでしょうか。
…僕たちは、かわいそうだとか、気の毒だと思われたいわけではありません。
ただ、みんなと一緒に、生きていたいのです。
不幸なのは、自分の意志ではなく、分けられてしまうことです。
もし、障害者が、分けられ続けなければいけない存在であるなら、僕たちの生きる価値はないでしょう。………
僕が、特別支援学校の高等部に進学しなかったのは、ひとりの人間として、将来の進路を自分で決めたかったからです。
………
障害があっても夢を叶えたいと願っている人は、たくさんいるはずです。
みんなの未来と僕たちの未来が、どうか同じ場所にありますように。
(『自閉症の僕の七転び八起き』東田直樹 KADOKAWA)
◇
子どもたちの未来が
どうか同じ場所にありますように
子どもたちみんなの未来が
どうか同じ場所にありますように
どうして、子どもを分けてはいけないか。
これが、理由です。
子どもたちみんなの未来が
どうか同じ場所にありますように
(つづく)
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