未来へのことば (その1)
9月13日に、今年2回目の就学相談会があります。
数えたことはないけど、26年目で、100回近いと思います。
親は、子どものために最善の「選択」のために、情報を聞きにきます。
私は、「選択」じゃなくて、「ただみんなといっしょを大事にするところから、始めてほしい」という思いをことばにします。
そこで「6歳の子どもの人生」が大きく変わってしまうかもしれない恐さを、いつも感じます。
そのとき、私の支えになっているのは、石川先生と小夜さんの「ことば」と、出会ってきた子どもたちの「存在」でした。
石川先生と小夜さんの「ことば」を支えに、子どもたちと出会い続けて三十年余り、そのことばが違うと思ったことが、一度もありません。
子どもはひとりひとり違うけれど、子どもたちへのまなざしを語ることばは、石川先生と小夜さんの言うとおりでいつも大丈夫でした。
相談会でいつも話してきたのは、「一緒がいいならなぜ分けた」ということばです。逆に言うと、三十年以上、それよりも伝わることばが見つかりませんでした。
でも、先日、みつけました。
東田直樹さんの『自閉症の僕の七転び八起き』という本です。
この本の「不幸だと思うとき」(P35~44)は、このブログを読んでいる人にはお勧めです。この10ページのためだけに、一冊(1300円)買っても損はありません。
ちなみに、東田さんは同じ県に住んでいますが、会ったことはありません。
私が紹介するまでもないですが、23歳の自閉症の青年で、13歳の時に書いた本はアメリカなどで10万部が売れ、20か国以上で翻訳されているベストセラー作家です。
ただ、私が興味を持つようになったのは最近です。
私には、彼の書くことばが、少しずつ大人になっているように感じます。
彼の中でいままでバラバラだったものが、急激に結びついていくように見えるのです。
前置きはこれくらいにして、彼のことばを少し紹介します。
◇
《不幸だと思うとき》
僕が、自分自身を不幸だと考えていたのは、小学生のときでした。
自分のことを誰もわかってくれないと思っていたからです。
母だけは僕の味方でしたが、それは味方であって、僕の苦しい気持ちを解消する助けにはなりませんでした。
僕は普通学級に在籍していたので、自分だけがみんなと違うと感じていました。
どうして僕だけ話せないのだろう、なぜ、僕だけやれないのだろうと、苦悩するばかりでした。
僕が一生かかってもできないことを、みんなが軽々とやっている姿を見るたび泣きたくなりました。
小学5年生まで普通学級に在籍しましたが、心身共に疲れ果て、逃げるように特別支援学校に転校したのです。
そこで本来の自分を取り戻すまで四年かかりました。
僕は、それまで特別支援学校の授業を見たことがなかったので、最初は普通学級とのあまりの違いに驚きました。
なぜ、僕はここにいなければいけないのだろうと思う気持ちがありましたが、普通学級では考えられない先生や友達のやさしさは、自暴自棄になっていた僕の心を救ってくれました。
特別支援学校では、僕は問題児ではなく、普通の生徒でした。
僕よりしっかりしている子も、大変そうな子もいました。
僕は、そこで初めて、世の中には障害を抱えながら生きている子供たちが大勢存在することを知ったのです。
特別支援学校では、ありのままの自分でいることができました。
僕にとって学校は、勉強するところではなく、自閉症としての自分を見つめる場所になりました。
学校では、ほとんど何もしなくていいような時間が流れていきました。
障害の特性に合わせた授業といっても、実際はさまざまな個性の子供がいるので、先生方は日常生活の面倒をみるだけでも手一杯な感じでした。
…特別支援学校は、確かに障害のある子にとって、居心地のいい場所でした。いじめられることもなく、必要以上に叱られることもありません。
僕は、ここで人から大切にされることの重要性を学んだと思います。
誰でも、人として生きていく権利を持っていること、障害のあるなしにかかわらず、人は幸せになれることを実感したのです。
僕は特別支援学校で自分なりの幸せを見つけ、将来はこの学校の高等部に進学し、地域の作業所で一生懸命に働けばいいのだと、考えるようになりました。
自分の居場所はここだったのだ、僕は重度の自閉症なのだから、なるべく人に迷惑をかけないようにしながら自分のできることを増やし、自立に向けて努力しなければいけない、そう決心しました。
以前通っていた普通小学校での思い出も、遠い過去のような気がしていました。
(『自閉症の僕の七転び八起き』東田直樹 KADOKAWA)
(つづく)
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