最近読んだ本に、「よるべなさ」という言葉が繰り返し使われていました。
「よるべなさ」「寄る辺なさ」…。
自分では使ったことのない言葉です。
「よるべなさ」とはどういう状態か、最初にあげられていたのは、家に居場所のない子どもの例でした。
◇
《家出》
【…小さな家出を繰り返す子どもは、家に居場所をみいだせない。
だから、家に帰りたくないと訴える。…
家に居場所を見いだせない、ということは、そこに受けとめ手がいないということである。
その状態がよるべなさである。
家によるべがないから、家を出て外をさまようのだ。】(※1)
はじめに書いたように、私は使わない言葉だし、あまりなじみもない言葉でした。
ということは、当然、その中身も考えたことがありません。
でも、そこに書かれているのは、「なじみがない」どころか、私の仕事そのものでした。
ホームに来る子どもは、家に寄るべがないから、来ざるを得ないのです。
◇
《3・11》
【3・11以降、大震災と原発事故は膨大な数の人びとにいくつもの層のよるべなき状態をもらしている。
帰るべき家、帰るべき職、帰るべき故郷を失った人たちのよるべなさ。
帰るべき家も土地も職場も田畑も海もあるのにそこから遠ざけられている人たち、そのようにして生きられる環境を奪われた人たちのよるべなさ。】(※2)
【…親を失った子どもたち、子を失った親たち、きょうだいを失ったきょうだいたち、…こういった人たちのかかえるよるべなさ。
たとえば、このうち、両親を突然なくした子どもの状況を思い浮かべてみる。
両親を一気に失うということは、受けとめ手、いいかえれば特定の特別な一緒の誰かを失うことである。
受けとめ手、…受けとめられ体験を提供しようとしてひたすらそこに居続けようとしてくれる人がいること、
そのことには二つの効果が考えられる。
第一は、いつもそばにその人がいるということが子どもにもたらす安心感、安定感である。
第二に、子どもが自分の必要に応じて、いつでもその受けとめ手を使うことができることである。
いつでも子どもの必要にふりまわされてくれる人がいるということだ。
このような存在のもとにあるいのちは、そのすこやかな存続が可能になるだろう。
問題はそのようないのちの存続にとってのかなめを喪失した場合である。
この生きる基底を失った状態は、安心して頼るべきところがもはや自分にはどこにもなくなってしまったという不安定感をもたらすことになる。
自分といういのちの存続が脅威にさらされる、そうしたレベルのよるべなき状態を子どもは経験するのだ。…】(※3)
ここに書かれてあることも、私の仕事のことでした。
「必要に応じて、いつでもその受けとめ手を使うことができる」ように、
「子どもの必要にふりまわされる」ために、ここにいるのでした。
ホームにいるのは小さな子ども、という訳ではありません。
外見からは、もう一人前の大人にも見えるでしょう。
実際、仕事をして収入を得ることもできます。
ただ、見えないものは、ひとりひとりの子どもの「よるべなさ」です。
私たちが忘れてはいけないことの一つが、そのことだと分かります。
◇
《「寄るべなさ」と、「分けられること」》
最初、「よるべなさ」という言葉がぴんときませんでした。
「寄る辺ない」…という漢字を見ても、やはりぴんときません。
両親がいて、妹がいて、親戚が近所に何軒もあって、自分の子ども時代に「寄る辺ない」というイメージはありませんでした。
ところが、「よるべなさ」=「helplessness」という英語をみて分かりました。
英語は赤点でしたが、helpとlessくらいは分かります。
その単語を見て、「救いのない名詞」の代表に思えたとたん、私にとっての「よるべない」時を思い出しました。
小学校三年生の時。
「普通学級にいられなくなる」と感じながら生きていた私は、この世に「寄る辺」なく、「help」のない状態そのものでした。
家があり、両親がいて、家族がいて、それでも「寄る辺なさ」は圧倒的でした。
(つづく)
{※1~※3=『家族という意思』芹沢俊介 岩波新書}
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