障害児と警察。
この言葉だけで、私はまず最大限の警戒心を抱きます。
知的障害がある安永健太さん(当時25)が、警察官に取り押さえられた後で死亡したのは4年前のことです。
Hideも17歳くらいのころ、突然警察に連行された?ことがあります。
当時、高校浪人中だったhideは、自立生活センターに通っていました。
裏の畑を抜けると駅があり、電車が好きなhideは、よく電車を見に行っていました。
ある日、一人で電車を見ていたことろを、突然警察に連れていかれたのでした。
警察に連れていかれたhideは警察官の腕に噛みついたりかなり抵抗したようです。
当然です。訳も分からず連行されるのですから、必死で抵抗するのは当たり前です。
身長180近くあるhideが必至で抵抗したら、警察官が抑えるにかなり大変だったはずです。
一歩間違えば、安永さんのような目にあうことも考えられます。
安永さんは「無抵抗」でただ怖くて逃げていただけですが、hideは噛みついて「反撃」しているのですから。(本当は反撃ではなく、必死で防御しているのですが)
後の警察の説明では、駅のホームにいた人が、線路の向こう側の金網のところに、「変な人がいて、線路に入り込んだら大変だ」というような通報があったようです。
よけいなお世話です。
Hideは金網に登った訳でもなく、ただ金網の向こうで電車を見て飛び跳ねていただけです。これが3歳の男の子だったら、誰も通報などしません。
それでも、通報があれば警察は動かざるを得ず、本人に話しかけても、ちゃんとした言葉が返ってこなければ、いったん保護ということになるのでしょう。
警察から連絡を受けたお母さんは、自分で迎えには行きませんでした。
ここが肝心なところです。
お母さんから「どうしたら…」と聞かれて、岩ちゃんは「親が行っちゃだめだよ」と言いました。
私は、「自立センターに行っているときに、警察が勝手に連れて行ったんだし、またあるかもしれないから自立センターの人が説明に行かなきゃ」と答えました。
親が迎えに行けば、「うちの子がご迷惑をおかけしました」という形になってしまいます。
でも、hideは何も悪いことをしていないのです。
警察が勝手に連れていって、何もなかったのだから、警察が自立センターに送り届けるべきです。
少なくとも、自立センターの職員が迎えに行き、この地域に「自立センター」があり、障害を持つ人たちが生活していること、電車が好きで一人で電車を見に行く人もいること、そうした「自立センターの存在」を警察に説明してくるのが筋です。
こうした場合、「親」が動くことで、「障害者と親はセット」という意識を支えてしまうことになり、一般の人のそうした意識が、障害者の自立の一番のバリアでもあるのです。
「親と障害者がセット」と見るのは、学校も警察も病院も同じです。
そうでないやり方を、私たちは考えなければなりません。
実際に自立センターの人が迎えに行き、事情を説明した結果、次にhideが「保護」されたときには、すぐに警察から自立センターに連絡が入りました。
「すぐにhide君だと分かりました」と警察の人が言ったそうです。
障害児と警察。
この言葉から、他にもいくつもの場面や言葉を思い出します。
私が生まれた年に冤罪で死刑を宣告された人がいました。
その人は、知的障害を理由に犯罪者にしたてられたのでした。
その人が再審の結果、日本で3人目の「死刑確定からの無実」を勝ち取った年、ある集会で私と康司はその人に声をかけられたことがあります。
そのとき、私は29歳でした。
その人は私の生きていた時間のすべてを、死刑囚として生きてきたのでした。
一瞬の出会いでしかありませんが、障害のある子どもたちとつきあう私にとって、かけがえのない一瞬として私の中にあります。
(つづく)
コメント一覧
yo
kaeru
最新の画像もっと見る
最近の「星になったhide」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
- ようこそ就園・就学相談会へ(485)
- 就学相談・いろはカルタ(60)
- 手をかすように知恵をかすこと(28)
- 0点でも高校へ(395)
- 手をかりるように知恵をかりること(60)
- 8才の子ども(161)
- 普通学級の介助の専門性(54)
- 医療的ケアと普通学級(90)
- ホームN通信(103)
- 石川憲彦(36)
- 特別支援教育からの転校・転籍(48)
- 分けられること(67)
- ふつう学級の良さは学校を終えてからの方がよくわかる(14)
- 膨大な量の観察学習(32)
- ≪通級≫を考えるために(15)
- 誰かのまなざしを通して人をみること(134)
- この子がさびしくないように(86)
- こだわりの溶ける時間(58)
- 『みつこさんの右手』と三つの守り(21)
- やっちゃんがいく&Naoちゃん+なっち(50)
- 感情の流れをともに生きる(15)
- 自分を支える自分(15)
- こどものことば・こどものこえ・こどものうちゅう(19)
- 受けとめられ体験について(29)
- 関係の自立(28)
- 星になったhide(25)
- トム・キッドウッド(8)
- Halの冒険(56)
- 金曜日は「ものがたり」♪(15)
- 定員内入学拒否という差別(96)
- Niiといっしょ(23)
- フルインクル(45)
- 無条件の肯定的態度と相互性・応答性のある暮らし(26)
- ワニペディア(14)
- 新しい能力(28)
- みっけ(6)
- ワニなつ(351)
- 本のノート(59)
バックナンバー
人気記事