悪い子ノート2019
「さとうもおれみたいだった?」
小学生のクソガキに聞かれたことがある。
「似たようなもんだったかな」
適当に答えた。
「お前よりかわいかったけどな」
それは口には出さなかった。
「おれもいい人になれるかな」
なんの罠だ?
「まだ間に合うかな」
え、本気で言ってる?
「まだ間に合うんじゃねーの」
6年生なんだから。
あれから15年が過ぎる。
あの声が何千回聞こえただろう。
私が彼を大嫌いだったのは、自分そっくりだったからかもしれない。
◇
「いい人になれるかな」と聞いた子は、自立支援施設に行った。
「まだ間に合うかな」と聞かれた私は、ふつう学級から分けられた。
おれたちに共通していたのは、学校で「いない」ことにされたことだった。
彼が行かされた自立支援施設の子たちも、長い間「就学猶予・免除」の扱いを受けていたことを最近になって知った。
【就学猶予又は免除があった児童生徒については、当該認可の日をもって、当該学校に存在しないものと同様に扱い、その指導要領は別に整理して保存すること。(昭和32年)】
障害児だけが、「就学猶予・免除」という扱いを受けたのではなかった。
「存在しないものと同様に扱う」ように言われた子どもとしても、おれたちは、同じ仲間だった。
自分の「いる」ことがあやういことを知りながら生きる仲間だった。
◇
私は保育園から廊下に立たされていた。
家では押入れや床下に閉じ込められた。
小学校ではふつう学級から追い出されかけた。
悪い子だった私に、おばさんは「ぼくはいい子」だという呪文を贈ってくれた。
だから悪い子だった私も、みんなと同じ学校の子どもでいることができた。
悪い子でも友だちや女の子を好きになる。
悪い子を好きになってくれる子もいる。
おかげで、私はいまも「おばさんのような人になりたい」という願いを生きている。
障害のある子に、「いるだけでいいのか」という人がいる。
それは、「いるだけ」をなくす怖さを知らない人が持てる言葉。
「分からない授業はかわいそう」という人がいる。
かわいそうなのは、そういうまなざししか知らない子ども。
先生に「いい子」だと思われなくていい。
大切に思ってもらえなくていい。
好きになってくれなくていい。
嫌いでいい。
だから、子どもでいられる場所を取りあげないでほしい。
先生には一人も出会えなくても。
たった一人でも、自分を見つけてくれる仲間に、出会えるだけでいい。
それだけで、生きていける人生もある。
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