ワニなつノート

オキシトシンとカエルの脳

オキシトシンとカエルの脳


2010年4月24日 毎日新聞
【自閉症:オキシトシン投与で知的障害者の症状改善 金沢大】

脳内ホルモンの一種「オキシトシン」の投与で重度の知的障害のある自閉症患者の症状が改善したと、金沢大・子どものこころ発達研究センターが23日、発表した。主治医の棟居俊夫・特任准教授は「知的障害のある患者で効果が確認された例は初めて」としている。
 
オキシトシンは出産時に大量に分泌され、子宮や乳腺の収縮などに作用、陣痛促進剤などとして使われている。他者を認識したり、愛着を感じる機能に関係するとの研究結果も最近出され、知能の高い自閉症のアスペルガー症候群で効果が実証されたとの報告もある。
 
この報告を知った、同センターに通院する20代の男性患者の両親が、08年にオキシトシンの点鼻薬を輸入し、数カ月服用したところ、(1)主治医の目を見て話す(2)対話で笑顔を浮かべる(3)IQテストが受けられるようになる--など症状が改善。10カ月間投与し改善状態の持続も確認した。
 
男性は3歳で自閉症と診断され、服用前は他者と目を合わせず、質問におうむ返しの反応しかできなかった。
 
これまで重度の知的障害がある自閉症患者へのオキシトシンの投与例はなく、今後、どのような患者に効果があるかを見極め、必要な投与期間や量、対象年齢などを突き止めるのが課題という。



     □    □    □

《自閉症が治る?!》
こうした類の「ニュース」を久しぶりに見ました。
新聞記者は、専門家の言うままを「おうむ返し」の反応でしか記事を書けない人のようです。

なんて、皮肉っても通じないんだろうな。

でも、この記事を目にしたとたん、
気持ち悪さにひっかかってしまって、素通りできなくなります。
この記事で、振り回される子どもがどれだけいることか。

さて、私は医者でも科学者でもありませんが、
「オキシトシン」とか「オピオイド」と聞いて、
すぐに思い出すことを、いくつか書いておきます。

まずは虐待された子どもについて書かれた本から。

    □     □     □

「自傷行為も、反抗の印や、気を引くための行為と
見られることが多いが、ほとんどの場合、
自らを癒そうとする行為だと考えたほうがいい。

身体を切ると脳からオピオイドが放出されるが、
過去にトラウマを抱え、
解離に安心を見出した経験のある人にとっては、
これが非常に魅力的なのである。

誰が切ったとしてもある程度はオピオイドの作用を
受けるものだが、それをはるかに心地よく魅力的に感じやすいのが、
過去のトラウマのせいで解離反応が感作されており、
現在感情的な痛みに耐えている人たちだ。

ヘロインやオキシコンチンのような薬物の使用者にも
同じことが言える。

一般に信じられているのとは逆に、
ほとんどの人はこうした薬物を試したところで、
圧倒的な恍惚感を得たりはりないのだ。

しかし、深刻なストレスと
トラウマの後遺症に悩んでいる者は、
薬物で感覚が鈍くなると感じるのではなく、
痛みがやわらぎ、楽になると感じる傾向がある。

解離が、生理学的にも精神的にも、
オピオイドで「ハイになった」状態と似ている…、
解離によって変化している場合は、
ヘロインのようなオピオイドを選ぶ傾向にある。」


『犬として育てられた少年』
ブルース・D・ペリー 紀伊國屋書店

      □     □     □


私には、難しいことは分からないが、
「自傷行為」をする子どもが、自分の体を切って、
脳からオピオイドをほしがることと、
そうした子どもが成長して、ヘロインをほしがる、
ということは理解できる。

では、子どもが安心するために必要なことは、
ヘロインを注射してあげることだろうか?

それ以前に、その子どもの苦しみが何だったのか。
その子はどんなことに苦しみ、それをわかってくれる人、
いっしょにいてくれる友だちがどれほどいたのか。
そうしたことを考える。

自閉症の人といったって、一人ひとり違う人生と人間関係と、
自分自身の人生を生きている。

それを、「花粉症の症状が改善する物質がみつかったあ」、
みたいに書くなよ。


もう一冊。
『我、自閉症に生まれて』で有名な
テンプル・グランディンの『動物感覚』から引用です。

 □     □     □


オキシトシンは、社会的記憶に欠かせないため、
あらゆる社会活動にとってとりわけ重要といえる。

…オキシトシンの遺伝子をもたない
突然変異のマウスを使って実験したところ、
このマウスが社会的記憶を形成しないことがわかった。

この発見から、
自閉症をもつ人の中には、オキシトシンの分泌に
欠陥がある人がいるかもしれないと考えられた。
たいていの場合、自閉症の人は、以前に会ったことのある人を
おぼえていないように見える。

とはいえ、そのほとんどは、《顔の記憶》ではなく、
自閉症の人がひどく苦手としている顔の認識と関係があるようだ。
これも、自閉症に関して理解されていない一面だが、
脳スキャンのデータで確認されている。
ふつうの人は、顔に対しての人物を認識するときに
脳のさまざまな部分を使う一方、自閉症の人は
脳の「物体を認識する」領域を使って顔と人物を認識する
という研究結果もある。

私自身も人の顔を認識するのにとても苦労するが、他の方法、
たとえば声を聞いて人を思い出すのはちっともむずかしくない。
オキシトシンは自閉症に関係しているのかもしれないが、
私にはわからない。
けれども自閉症の人が顔の認識で問題があるのは、
他に原因があるのではないかと考えている。


      

犬のオキシトシン値は飼い主にかわいがられると上昇し、
犬をかわいがることで飼い主のオキシトシン値も上昇する。
これが、そもそも犬を飼う人がこれほどたくさんいる理由だろう。

まだ調べた人はいないが、
犬が人間を心やさしい人、りっぱな親にすることが、
そのうちあきらかになるだろう。

オキシトシンは人間にとってきわめて重要だ。
女性は出産の直前からオキシトシン値が急上昇するし、
この高い値が母親らしいあたたかさとこまやかさを
誘発することが研究でわかっている。

オキシトシンは男性にも、こまやかな「母性」行動を生じさせる。
だから、人間にとって、犬をかわいがるのは、
おそらく毎日「いい親になる」注射を打っているようなものだ

      



「オキシトシンもバソブレシンも、
性交中の男女の脳内で大量に分泌される。

とても歴史の古い化学物質で、
どちらもカエルなど両生類の性行為をつかさどる
バソトシンから進化した。

ごく少量のバソトシンをカエルの脳に入れると、
カエルはたちまち求愛と交尾行為をはじめる。

バソトシンと、オキシトシンとバソブレシンは
たったひとつのアミノ酸がちがうだけなので、
セックスに関しては、私たちはいまだに
カエルの脳がはたらいている。」


      □     □     □


ここまで、書き写して、最初に記事を読んだ時の
気持ち悪さが、少し薄れました。

この新聞記者が、こうしたことや、
今まで自閉症の子どもたちが「薬」や「治療」で
どれほど虐待されてきたか、
その歴史を少しでも知っていれば、
こんな記事の書き方はしないと思うんだけどな…。





コメント一覧

やすハハ
本当ですね。充分な経験や知識を持った人が記者とは限りませんし、医者は治すことの専門家。障害のある子と生活する専門家?は親です。

子どもが小さいときは、そういう記事に翻弄されていたかもしれませんが(>_<)

今は、不思議と?普通に生活してますね~。何がそうさせているのでしょうか~?
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