「親の当事者研究」とか、
「なぜ、ふつう学級を当たり前と思う人と、そうでない人がいるのか」、
そしてアリスミラーのニーチェの研究を読みながら、
どうも私は、難しく考えてきました。
ところが、さっき、読んだ本に一つの答を見つけました。
【赤ちゃんのしつけ】
くじら組(年長組)のさりなちゃんと愛ちゃんが、
乳児室にやってきて、0歳の蓮くんと遊んでいました。
さりなちゃんが蓮君を抱っこしながら、
手に木製の玩具を持たせてやりました。
すると、蓮君は、「キャッキャッ」と声を立てながら、
さりなちゃんのほっぺを玩具で叩き始めたのです。
さりなちゃんは、「かわいい、かわいい」とニコニコ笑いながら、
叩かれるままにしていました。
その様子を見た愛ちゃんは、さりなちゃんをたしなめました。
「あかんよ、玩具なんかで顔を叩かしたりしたら。
くせになって、大きくなったら、暴力を振るう子どもになるんよ。
ママがいうてたよ」
「違うよ。赤ちゃんいうのは、何でもさせてあげるんがええねんで。
甘やかしてかわいいと育てるんがええねんで。お母さんがいったよ」
さりなちゃんは負けずに言い返しました。
今度は、愛ちゃんが蓮君を抱きました。
すると蓮君は、愛ちゃんの顔も玩具で叩き始めたのです。
「だめ! 叩いたらあかんの」
愛ちゃんは、まるでお母さんのように怒った顔で叱りつけたのです。
とたんに蓮君は、「わっ」と、火のついたように泣き始めたのです。
「ほら、泣かしたらあかんやんか。私が抱っこしてあげる」
といって、さりなちゃんは蓮君を受け取りあやし始めました。
それでも蓮君は、まだ泣きやみませんでした。
しかたなく、さりなちゃんは、ポケットからクッキーを取りだして、
手に持たせたのです。
とたんに、蓮君は泣きやんで、
「キャッキャッ」と声を立てながら食べ始めたのでした。
さりなちゃんは、「かわいい、かわいい」といいながら見守っていました。
その様子を見た愛ちゃんは、また、さりなちゃんをたしなめたのです。
「あかんやんか、おやつの時間とちゃうのに、クッキーなんか食べさせたら。
赤ちゃんは食べるのんは、時間が決まってるんやで。
ご機嫌を取るのに、クッキーなんか食べさせよったら、
くせになって、だんだんと肥満児になってしまうんよ。
ママがいうてたよ」
「違うよーだ。赤ちゃんは、いつでも、
何でも食べさせてあげるのがええねんで。
食べたいときに食べさせて育てんのが体にええねんで。
お母さんがいうたよ」
と、さりなちゃんがいっているのに、
愛ちゃんは、蓮君からクッキーを取り上げてしまったのです。
とたんに、また、蓮君は「わっ」と、火のついたように泣き始めたのです。
「あかん。取ったら、あかんやんか」といって、
さりなちゃんは、愛ちゃんからクッキーを取り返そうとしたのです。
「いや」といって、愛ちゃんは、
クッキーを後ろに回して返さない素振りを見せました。
するとさりなちゃんは、泣いている蓮君を床の上におくや、
愛ちゃんの頭を一発、ピシッと叩いたのです。
とたんに、愛ちゃんが泣きだしたのです。
「わあーん。赤ちゃんは厳しくせなあかんのに。ママがいうとったのにー」
と泣きながら、
今度はさりなちゃんの頭を一発、叩き返したのです。
とたんにさりなちゃんも泣き出したのでした。
「わあーん。赤ちゃんは、優しくしてやらんとあかんのにー。
お母さんがいうとったのにー」
とうとう二人とも泣いてしまいました。
蓮君は、泣きやんでしまい、きょとんとした顔で二人を見つめていました。
(『ダックス先生の保育園物語』 鹿島和男 ミネルヴァ書房)
「来週の日曜日に相談にくるお母さんやお父さんの答えは、
その人の5歳のころに、もうすでに決まっているのかもしれない…」
そんなことを思います。
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