子どもの不安とまっすぐに向き合うために(3)
1・
不登校の子どもは30人から40人に一人くらいです。
「働いていたら、学校に連れていくしかないでしょ」という言葉は、
学校に通えている子の親の常識の中では了解されやすい言葉です。
その言葉の裏には、「ちょっとくらい」嫌なことがあっても、
学校くらい通えなきゃ「おかしい」という思いがあります。
「甘えてる」「がまんが足りない」
「逃げてる」「弱い」「頼りない」、
そうしたイメージがあるのだと思います。
2・
不登校とは別の問題だったら、どうでしょう。
1年生の子どもが肺炎で40度を越える熱を出していたら、
「働いていたら、学校に連れていくしかないでしょ」
と言う親はいないでしょう。
40度の熱と、学校に行きたくないという気持ちと、
一人の子どもにとって、どっちが「苦しい」かを、他人は分かりません。
むしろ40度の熱があっても、学校に行きたがる子はいます。
その時には、むしろ親は引き止めるのではないでしょうか。
でも、「行きしぶる」子どもの訴えは、
病気のようには心配してもらえません。
子どもの問題が、「不登校」ではなく、
交通事故で重体であったり、ガンや白血病という
命に関わる病気にかかったときには、
親の対応は違うものになるだろうと思います。
そうした状況の時には、将来の不安よりも、
目の前の不安しか見えないでしょう。
その時々の子どもの刻々と変わる状態に、一喜一憂しながら、
目の前の不安に振り回されるかもしれません。
でも、そうした揺れるなかでも、
必死で目の前の問題を一つひとつ乗り切ろうと、
子どもとちゃんと向き合いながら、お互いの不安を正直に言葉にし、
受けとめ合うことはできます。
だから、不登校のことも、分からなければ分からないまま、
子どもと一緒に悩み迷いながらいくしかないのだと思います。
大事なことは、大人だから「しっかりしている」ことでもなければ、
「知識がある」ことでもありません。
親が自分の気持ちに正直であることが大事なことなのだと思います。
だから、「学校くらい行けなくてどうするのよ」と思っているのなら、
それを子どもと話してみればいいのです。
でもその時には、子どもが「自分の気持ちに正直であること」も
また同じように大事にしなければなりません。
本当にお互いの感情を大事にしていれば、
いずれ親の苦しさよりは、
子どもの苦しさに向き合わなければならないことが分かります。
なぜなら、学校に行くのは親ではなく、子どもだからです。
3・
子どもの障害や、病気、不登校のために、
もし両親のうち、どちらかが仕事を辞める選択をするとします。
そのときに、「母親」が辞めるのが当然という空気があるしたら、
それは子どもの問題ではなく、夫婦の関係の問題であり、
親の生き方の問題になります。
父親が正社員で、母親がパートであれば、
母親が辞める方が無難だということになります。
条件が逆なら、父親が辞める方が無難です。
それは、子どもの問題とは無関係な判断です。
また、両親が同じ条件なら、それも子どもの問題ではなく、
夫婦の関係の問題でしょう。
歩ちゃんが人工呼吸器をもって退院するとき、
仕事を辞めたのは父親でした。
そして、保育園、小学校、中学校、高校と、
歩ちゃんがふつうの子どもの学校生活を送ることに人生をかけたのでした。
それは、平本さんの「強さ」だったでしょうか。
「正しさ」だったでしょうか。
私はそうは思いません。
平本さんは、いつも歩ちゃんの気持ちを感じ、自分の感情を感じながら、
その時々に揺れながら、迷いながら、
子どもと一緒に歩んできたのでしょう。
「強さ」や「正しさ」よりも、大切なのは「感じる」ことです。
目の前の子どもが初めてぶつかる問題は、
親もまた初めてぶつかる問題です。
準備や知識など、たいした意味はありません。
じゃまになることさえあります。(※1)
それよりは、子どもの初めての不安によりそい、
一緒に悩み、揺れ、一緒に迷うこと。
子どもが自分で解決する力を、いつのときも信じながら、受けとめること。
親はわたしをいつも見守っていてくれると、信じてもらうこと。
そういう受けとめ合うことが、何より大事なことだと私は思います。
そして、それは親もまた一人で、孤立していては難しいことです。
信頼できる仲間がいてこそ、お互いに支え合うことができるのだと思います。
(※1)
私はこれで失敗しました。
苦しそうだから「行かなくていいよ」という私に、
4才の娘は言いました。
「いかなくていい、言わないでよ。Niiは行きたいんだから」
そう言いながら休んでいたけれど…(・。・)
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