うーれとカズキツネ(その3)
(続・クリスマスのハクテン)
3.《たいせつなもの》
「いっしょに宝物を探してくれる人……」
去年の十二月、カズキがサンタさんに
手紙を書いていたのを思い出した。
あのころ、カズキは「ハクテンっていいよね~」と
口ぐせのように言ってた。
今はハクテンよりいいものを探してるんだね。
だけど、「ハクテンよりいいものってなんですか?」、
あらためてそう聞かれると困った。
「ハクテンよりいいもの……。」
そういえば、わたしも百点を取ったことがない。
1年生のときは、学校の世界がめまぐるしくて、
ついていけなかった。
あれから、ずっと学校に行かなかったから
テストも受けたことがないし…。
だから、百点よりもいいものと言われてもピンとこなかった。
わたしにとって百点は宝物じゃない。
それじゃ、わたしにとって大切な宝物ってなんだろう。
お母さんとお父さん、妹のまりん。
それと大好きなおばあちゃん。
でも、それって当たり前の答えだし。
むずかしいな…。
わたしだけの大切な宝物。
世界中旅してでも探したい宝物。
わたしがいちばん欲しいもの…。
むずかしいな…。
それに、このノートは何の地図なんだろう。
わたしはカズキになんて言えばいいんだろう。
カズキはうれしそうに笑っている。
わたしが何か話すのを、
子犬のように目を輝かせて待っている。
本当に困った。
ふと、足元をみると、カズキがひっくり返した
ランドセルの中身がそのままになっている。
「3年国語下」
なつかしいな…。
わたしが家でひとりで読んでいた教科書と同じだ。
そういえば、学校の教科書で、
ひとつだけ泣きながら読んだ物語があった。
「ごんぎつね」。
あの時は、どうして涙がこぼれるのか、
よく分からないまま、ひとりで泣いていた。
カズキの教科書をしまおうとして、
机の中の白紙の原稿用紙を思い出した。
卒業文集には何も書けなかったけど、
本当は一つだけ書きたいことがあった。
わたしが手探りで探していたなにか。
「カズキ、わかったよ。
わたしの探してたもの、書いてみるね」
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