ワニなつノート

「就学相談会の答え合わせ」メモ⑱ 《お》『おやはてきじゃない』と『お母さんをたすけて』

「就学相談会の答え合わせ」メモ⑱ 

《お》『おやはてきじゃない』と『お母さんをたすけて』

           □

「親は敵だ」という言葉を知ったのは学生のとき。そう「言ってもいい」のだという衝撃を受けた。アリスミラーの『魂の殺人』はさらに衝撃だった。自分の「腑に落ちなかった」ことが、すべて書かれていた。「どうしておれの子ども時代を知っているんだろう」、本気でそう思った。

その後四十年余り、「親は敵だ」という言葉と、「親の虐待」を同時に考えてきた。目の前には、両方の立場の子どもがいた。

          □

私は聴き間違えていた。

子どもの声に、「親は敵」はなかった。

虐待の被害にあった子も、障害のために分けられた子も、「敵」だとは言ってなかった。昨日、無数の顔が重なって聴こえた声は、「親を助けて」だった。

          □

理不尽な差別であれ、理不尽な暴力であれ、子どもは親の期待に応えたい。でも親の望む形に応えられない子は、自分には親を助けることができない、と考える。だから、誰か「親を助けて」ほしい。

「そうすれば、大切に思ってもらえる。しあわせなかぞくになれる」。それが子どもの願い。

          □

「親は敵だ」は「大人」の言葉だと思う。

多くの言葉を学び、表現できるようになった「大人」が、それまで「腑に落ちない」まま抱えてきた思いを、「言葉」にしたものではなかったか。

それを、就学相談会の場で語っても、何かがズレていたのだと今はよく分かる。

          □

20年前、一時保護所の小学生に、「さとうもおれみたいだった?」と聞かれたことがある。

《お前ほど憎たらしいクソガキじゃなかったさ》と思いながら、「似たようなもんかな」と答えた。彼はつづけた。

「おれもいい人になれるかな?」

「なれんじゃないの~」と、受け流した私に彼は言った。

「まだ間に合うかな」

          □

あの対話の意味が、20年後のいま聴こえてくる。

「さとうも、おれみたいに、親の期待に応えられない、悪い子だったの?」

「おれもここの大人みたいな、いい人になれたら、お母さんも受け入れてくれるかな」

ケンカと意地悪ばかりで、子どもたちからも職員からも嫌われている自覚があったのだろう。彼は私に、同じクソガキとして、「親を助けたいよね」「助けられるかな」と話しかけていたのだ。

彼の言葉と、就学相談会でAちゃんから聴こえた「おかあさんを助けて」という声は、「同じ声」だった。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ようこそ就園・就学相談会へ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事