入院中に娘に伝えておきたいと何度も浮かんだ言葉があります。
「人は死んだらどこに行くのか」、という問いをめぐる言葉です。
私の記憶の中では、「人は死んだら、それまで共に生きてきた大切な人の心のなかに行く…」というものでした。
ただ、それがどの本の、誰の言葉だったか思い出せずにいました。
退院して家に帰ったら見つかるだろうと思ったのですが、ホスピスや終末期医療など、死に関する本を片っ端から開いてみましたが見つかりませんでした。
さっき、偶然見つかりました。
家の本棚ではなく、ホームの本棚にありました。
『自己決定権は幻想である』 小松美彦・洋泉社
◇
「…かつて中井(英夫)は自分の文学上の盟友の今際にかけつけたとき、衰弱した盟友に、「人は死んだらどこへ行くのか」と聞かれ、答えることができなかった。
盟友が亡くなった後もずっとそのことを悩み続け、答を見つけられないまま、やがて自分の番がやってくる。
そして、病床で、自分に寄り添ってかいがいしく世話をする人に向かって、ほとんど遺言のように、「わかった。人は死んだら、残された者の心の中に行くんだ」と言ったというのです。」
◇
これを初めて読んだとき、すーーっと私の中で腑に落ちるものを感じたのを覚えています。
中3の時から、何か本当のことが知りたいと思い、仏教や禅のお坊さんの本を読んでいましたが、神様も天国も地獄もまったくピンとこないし、死んだら土に還るというのもなんだか当たり前だし…と思っていた私が、知りたかったことは、こういうことだったのだと感じました。
いつか死を意識するときには、この言葉を思い出せればいいなと思いました。
それと同時に、「だから、やっぱり、普通学級だよな」とも思ったのです。
うまく言葉にできませんが、お腹を開けてみなければ転移の状況も分からない手術の前後、娘に伝えたいことと、就学相談会で伝えたいこととは、この言葉でつながっているような気がしています。
「わかった。人は死んだら、残された者の心の中に行くんだ」
この言葉は、「死んだら…」の前に、「わかった」と感じられる人との出会いと、共に生きる日々の豊かさを表しているのだと思います。
そして、この言葉のあとには、「だから、死んだ後もさびしくないね」という思いが、続くように思います。
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