COPDの臨床所見の続きです、今回も視診について考えていきましょう。
f.全身の筋肉の萎縮:muscle wasting
COPDが進行すると、全身の筋肉が徐々に萎縮してくる。 呼吸困難による臥床傾向、低酸素症、TNFなどのサイトカイン増加などが原因とされている。 BMI低値は、COPD患者の予後不良因子でもある。
g.樽状胸郭:barrel chest
肺の過膨張に加え、腹部の前後径の短縮もあり、胸郭が樽状となる。 胸郭の前後径が横径に匹敵するか、より大きくなった状態を樽状胸郭と定義されることもある。 胸椎の後湾をきたすこともあり、肺性後湾症pulmonary kyphosisと呼ばれている。
h.ポンプの柄運動の消失
正常の呼吸運動を側面から観察すると、胸骨角を軸にして、ポンプの柄運動様の動きが認められる。 COPDが進行するとこの動きが消失し、1秒率が40%以下となっていることを示す。
i.バケツの取っ手運動の消失
正常の呼吸運動を正面から観察すると、肋骨からなる外側輪郭が、バケツの取っ手運動様に動くことが認められる。 COPDが進行するとこの動きも消失し、1秒率が40%以下となっていることを示す。
j.奇異性呼吸:respiratory paradox
正常の呼吸では、吸気時に横隔膜が収縮下降し、腹部内臓を前方に押し出すため、腹部の前後径が増大する。 COPDが進行すると横隔膜の筋力が低下するため吸気時には、呼吸補助筋の活動によって胸腔内圧の低下が起こり、横隔膜が上方へ吸引されることにより、吸気時に腹壁が内方に陥凹する。 特にCOPD急性憎悪患者において、奇異性呼吸をみる場合には、機械的換気補助の必要性を示唆している。
k.Hoover徴候とHoover溝
Hoover徴候(Hoover's sign)とは、吸気時に肋間組織が内方へ陥凹することを指す。 COPD患者では、この吸気時の陥凹現象と呼気時の外方突出現象が過剰に亢進した形で観察される。 吸気時に両側下部の肋骨間の腹壁に溝が形成されることが視診にて観察されるものをHoover溝と呼ぶ。
l.末梢の浮腫
COPD患者では下記の4種の機序により、末梢の浮腫をきたすことがあり、これは予後不良のサインでもある。
1.肺性心による右心不全→浮腫
2.高CO2血症(>65mmHg)→腎臓内の血流分布異常(皮質から髄質)による乏尿→浮腫
3.低O2血症(<40mmHg)→腎臓への輸入臍動脈収縮による乏尿→浮腫
4.栄養不良→低アルブミン血症(膠質浸透圧の低下)→浮腫
今回は以上です、次回は触診や打診について考えていきましょう。