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循環器徴候5 連載 その45

2014-05-05 | 症例集

 今回は久々に循環器徴候とピットフォールの症例集で考えていきましょう。

 例19 78歳女性 主訴:呼吸困難   二週間前に自宅で転倒により右大腿骨頚部骨折。 翌日手術を施行された患者。

 今朝(術後14日目)より急性発症の呼吸困難感あり。 咳、痰、発熱、喘鳴などはなし。

 バイタルサイン:血圧100/80、脈拍130/分、呼吸34/分、体温36,3度 身体所見上、内頚静脈圧が10cmH2O(胸骨角より頚静脈拍動の頂点までの高さは5cm)と上昇していた。 肺野の聴診ではラ音を聴取せず。 心音で第二音の肺動脈成分(P2)が亢進。 胸部レントゲン写真では特に陰影を認めなかった。

 ・ピットフォール   担当医は誤嚥性肺炎を考え抗菌薬投与を指示した。 低血圧は「脱水」によるものと考えた。

 ・その後の経過と解説   骨折術後の経過中に突然発症する呼吸困難では、肺塞栓をまず考える。 脈拍が収縮期血圧値より大きくなっており、「バイタルの逆転」を示している。 「バイタルの逆転」はショックを示唆している。 この患者のショックの鑑別では、内頚静脈圧が10cmH2Oと上昇しているのがポイントである。 すなわち、脱水や出血(低容量性ショック)、敗血症や迷走神経反射(血管拡張性ショック)では、静脈圧は低下するが、肺塞栓では静脈圧は上昇する。

 低静脈圧型ショックは頻度も多く「通常型ショック Common Type Shock」とも呼ぶべきものである。 通常型ショックの初期治療は迅速大量輸液である。 逆に、高静脈圧型ショックは頻度が少なく「非通常型ショック Uncommon Type Shock」とも呼ぶべきものである。 初期治療はポンプ機能の改善(心原性ショック)または循環閉塞の解除(閉塞性ショック)である。 このように、静脈圧はたいへん有用であり「第五のバイタルサイン」とも呼ぶべきである。

 今回はこの辺で、この症例の続きは次回に。

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