前回の続きです。
呼吸数による腹痛の鑑別診断 「腹痛を主訴に来院する患者では、まず腹部臓器以外の疾患を考える」という原則がある。
その場合、呼吸数に注目する。 腹痛を主訴とする患者において、呼吸数が異常に増加している場合には(>30回/分)、胸腔内臓器の疾患をまず考慮する。 「痛みそのものによるストレス」でも呼吸数の増加をみるが、その場合は30回/分未満であることが多い。
上腹部に近く位置する臓器で腹腔内にあるものとしては、肺、心臓、胸膜、心膜、大動脈などの重要なものがある。 そのため、上腹部痛を訴える患者で呼吸数が異常に増加している場合、主要な鑑別として、胸膜炎、肺塞栓症、膿胸、肺底部肺炎、心筋梗塞、大動脈解離、心外膜炎などがあげられる。
一方、腹部疾患が原因で呼吸数が異常に増加している場合には、腹膜炎や腸管壊死などによる敗血症を考える。 これには、続発性腹膜炎(消化管穿孔、壊死などによる)、原発性腹膜炎(肝硬変や結合組織病、家族性地中海病などによるもの)、虚血などによる腸管壊死がある。
呼吸の深さ 呼吸数の評価を行うときに、併せて呼吸の深さも評価する。 「浅い」呼吸か「深い」呼吸かの評価を行う。 1回換気量と呼吸数のいずれかまたは両方が低下した状態を、肺胞低換気(alveolar hypoventilation)と呼ぶ。 一方、急性の浅く速い呼吸は肺炎に特徴的な所見である。 浅い呼吸はまた、胸膜痛、肋骨痛、術後痛などでも認められる。
SpO2より呼吸数が重要 パルスオキシメーターはSpO2を測定できるが、呼吸数の代用にはならない。 その理由は酸素解離曲線をみれば一目瞭然である。
「酸素解離曲線がS字状である」というのは重大な意味がある。 すなわち、初期にはPaO2は「急激に」低下してもSpO2は90%台では「緩徐に」のみ低下する。 その後80%台以下となったSpO2は曲線の坂を「転げ落ちるように」急激に低下する。
このピットフォールを回避するためには、「呼吸数」を測定すればよい。 末梢組織への酸素供給低下はまず呼吸回数増加に反映する。 呼吸回数を欠いたSpO2のみで呼吸モニターをしているとエマージェンシーの予兆は察知できない。
今回のシリーズはここまでです、では次回に。