ラディカ・クマラスワミ氏は、国連人権委員会より任命された女性に対する暴力に関する特別報告者である。このクマラスワミの報告書は、政府、条約機関、女性団体を含むNGO(非政府組織)などから、女性に対する暴力に関する情報を収受し、女性に対する暴力、及びその原因を撤廃し、暴力の結果を救済するための国内的、地域的、国際的手段・方法を勧告することを求められ、それに応えるためにまとめられたものである。
このクマラスワミ報告書には、日本軍の「従軍慰安婦」問題(報告書では「軍事的性奴隷問題」とされている)についての問題解決のための勧告が含まれている。
この問題の調査研究については、下記「特別報告者の作業方法と活動」の45にその研究方法や内容の概略が示されているが、調査団は事前に「豊富な情報と資料を受け取り」、「注意深く検討」した後、ピョンヤンで4人の元「軍事的性奴隷」の証言を得、ソウルでは13人の元「慰安婦」と会い、東京で在日の元「慰安婦」や日本帝国陸軍の元兵士の証言を得て報告書を作成したという。それが、1996年2月に国連人権委員会に提出され、公表されたのである。
同委員会は、「軍事的性奴隷問題」を含むクマラスワミ報告書について、この活動を歓迎し、この報告に留意するとの決議案を無投票全会一致で採択したという。
ただし、その後下記29の吉田清治の証言部分については、彼が奴隷狩りをしたとされる地元の『済州新聞』が、取材結果をもとにその事実を否定し、日本の歴史家も証言の基本的な部分が確認できないため歴史証言としては採用できないとしたため、その部分の修正が求めらるが、多くの証言や資料に基づいたこの報告書を全否定できるものではないことは明らかであり、勧告は受け入れるべきであると思う。「問われる女性の人権」日本弁護士連合会・編(こうち書房)よりの抜粋である。
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戦時における軍事的性奴隷問題に関する
朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国および日本への
訪問調査に基づく報告書
Ⅱ 歴史的背景
B 徴集
23. 第2次世界大戦直前および戦争中における軍事的性奴隷の徴集について説明を書こうとする際、もっとも感じる側面は、実際に徴集が行われたプロセスに関して、残存しあるいは公開されている公文書が欠けていることである。「慰安婦」の徴集に関する証拠のほとんどすべてが、被害者自身の口頭証言から得られている。このことは、多くの人が被害者の証言を秘話の類とし、あるいは本来私的で、したがって民間が運営する売春制度である事柄に政府をまきこむための創作とまでいってのけることを容易にしてきた。それでも徴収方法や、各レベルで軍と政府が明白に関与していたことについての、東南アジアのきわめて多様な地域出身の女性たちの説明が一貫していることに争いの余地はない。あれほど多くの女性たちが、それぞれ自分自身の目的のために公的関与の範囲についてそのように似通った話を創作できるとは全く考えられない。
29. いっそう多くの女性が必要になった場合には、日本軍は暴力やむきだしの武力、人狩りに訴えた。そのうちには娘の誘拐を阻止しようとした家族の殺害が含まれていた。国家総動員法が強化されたことで、これらの手段をとることは容易になった。この法律は1938年公布されたが、1942年からは朝鮮人の強制徴用に適用された。多くの軍「慰安婦」たちの証言は、徴集に際して広範に暴力と強制が
用いられたことを証明している。さらに、戦時中行われた人狩りの実行者であった吉田清治は、著書のなかで、国家総動員法の一部として労務報国会のもとで自ら奴隷狩りに加わり、その他の朝鮮人とともに1000人もの女性たちを「慰安婦」任務のために獲得したと告白している。
Ⅲ 特別報告者の作業方法と活動
45. 第2次世界大戦中のアジア地域における軍事的性奴隷の問題に関して、特別報告者は、政府および非政府組織の情報源から豊富な情報と資料を受け取った。そこには被害女性たちの証言記録がふくまれていたが、それらは調査団の出発前に注意深く検討された。本問題についての調査団の主要な目的は、特別報告者がすでに得ている情報を確かめ、すべての関係者と会い、さらにそのような完全な情報に基づいて国内的、地域的、国際的レベルにおける女性に対する暴力の現状、その理由と結果の改善に関して結論と勧告とを提出することであった。その勧告は、訪問先の国において直面する状況を特定したものになるかもしれず、あるいはグローバルなレベルで女性に対する暴力の克服を目指すもっと一般的な性格のものになるかもせれない。
46. 調査団の活動中、特別報告者がとくに心がけたのは、元「慰安婦」の要求を明確にすることと、現在の日本政府が本件の解決のためにどんな救済策を提案しつつあるのかを理解することであった。
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Ⅸ 勧告
136. 本特別報告者は、当政府との協力の精神に基づいて任務を果たし、かつ女性に対する暴力と、その原因および結果のより広範な枠組みのなかで、戦時の軍事的性奴隷の現象を理解するよう試みる目的のために以下のとおり勧告したい。特別報告者は、特別報告者との討議において率直であり、かつ日本帝国軍によって行われた軍事的性奴隷制の少数の生存女性被害者に対して正義にかなった行動をとる意欲をすでに示した日本政府に対し、協力を強く期待する。
A 国家レベルで
137. 日本政府は、以下を行うべきである。
(a)第2次大戦中に日本帝国軍によって設置された慰安所制度が国際法の下で
その義務に違反したことを承認し、かつその違反の法的責任を受諾すること
(b)日本軍性奴隷制の被害者個々人に対し、人権および基本的自由の重大侵
害被害者の原状回復、賠償および更正への権利に関する差別防止少数者
保護小委員会の特別報告者によって示された原則に従って、賠償を支払うこ
と。多くの被害者がきわめて高齢なので、この目的のために特別の行政的審
査会を短期間内に設置すること。
(c)第2次大戦中の日本帝国軍の慰安所および他の関連する活動に関し、日本
政府が所持するすべての文書および資料の完全な開示を確実なものにする
こと。
(d)名乗り出た女性で、日本軍性奴隷制の女性被害者であることが立証される
女性個々人に対し、書面による公的謝罪ををなすこと。
(e)歴史的現実を反映するように教育課程を改めることによって、これらの問題
についての意識を高めること。
(f)第2次大戦中に、慰安所への募集および収容に関与した犯行者をできる限り
特定し、かつ処罰すること。
B 国際的レベルで
138. 国際的レベルで活動している非政府組織・NGOは、これらの問題を国連機構内に提起し続けるべきである。国際司法裁判所または常設仲裁裁判所の勧告的意見を求める試みもなされるべきである。
139. 朝鮮民主主義人民共和国および大韓民国は、「慰安婦」に対する賠償の責任および支払いに関する法的問題の解決をうながすよう国際司法裁判所に請求することができる。
140. 特別報告者は、生存女性が高齢であること、および1995年が第2次大戦終了後50周年であるという事実に留意し、日本政府に対し、ことに上記勧告を考慮に入れて、できる限り速やかに行動を取ることを強く求める。特別報告者は、戦後50年が過ぎ行くのを座視することがなく、多大の被害を被ったこれらの女性の尊厳を回復すべきときであると考える。
一部読点を省略または追加したり、改行を変更したりしています。青字が書名や抜粋部分です。赤字は特に記憶したい部分です。
このクマラスワミ報告書には、日本軍の「従軍慰安婦」問題(報告書では「軍事的性奴隷問題」とされている)についての問題解決のための勧告が含まれている。
この問題の調査研究については、下記「特別報告者の作業方法と活動」の45にその研究方法や内容の概略が示されているが、調査団は事前に「豊富な情報と資料を受け取り」、「注意深く検討」した後、ピョンヤンで4人の元「軍事的性奴隷」の証言を得、ソウルでは13人の元「慰安婦」と会い、東京で在日の元「慰安婦」や日本帝国陸軍の元兵士の証言を得て報告書を作成したという。それが、1996年2月に国連人権委員会に提出され、公表されたのである。
同委員会は、「軍事的性奴隷問題」を含むクマラスワミ報告書について、この活動を歓迎し、この報告に留意するとの決議案を無投票全会一致で採択したという。
ただし、その後下記29の吉田清治の証言部分については、彼が奴隷狩りをしたとされる地元の『済州新聞』が、取材結果をもとにその事実を否定し、日本の歴史家も証言の基本的な部分が確認できないため歴史証言としては採用できないとしたため、その部分の修正が求めらるが、多くの証言や資料に基づいたこの報告書を全否定できるものではないことは明らかであり、勧告は受け入れるべきであると思う。「問われる女性の人権」日本弁護士連合会・編(こうち書房)よりの抜粋である。
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戦時における軍事的性奴隷問題に関する
朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国および日本への
訪問調査に基づく報告書
Ⅱ 歴史的背景
B 徴集
23. 第2次世界大戦直前および戦争中における軍事的性奴隷の徴集について説明を書こうとする際、もっとも感じる側面は、実際に徴集が行われたプロセスに関して、残存しあるいは公開されている公文書が欠けていることである。「慰安婦」の徴集に関する証拠のほとんどすべてが、被害者自身の口頭証言から得られている。このことは、多くの人が被害者の証言を秘話の類とし、あるいは本来私的で、したがって民間が運営する売春制度である事柄に政府をまきこむための創作とまでいってのけることを容易にしてきた。それでも徴収方法や、各レベルで軍と政府が明白に関与していたことについての、東南アジアのきわめて多様な地域出身の女性たちの説明が一貫していることに争いの余地はない。あれほど多くの女性たちが、それぞれ自分自身の目的のために公的関与の範囲についてそのように似通った話を創作できるとは全く考えられない。
29. いっそう多くの女性が必要になった場合には、日本軍は暴力やむきだしの武力、人狩りに訴えた。そのうちには娘の誘拐を阻止しようとした家族の殺害が含まれていた。国家総動員法が強化されたことで、これらの手段をとることは容易になった。この法律は1938年公布されたが、1942年からは朝鮮人の強制徴用に適用された。多くの軍「慰安婦」たちの証言は、徴集に際して広範に暴力と強制が
用いられたことを証明している。さらに、戦時中行われた人狩りの実行者であった吉田清治は、著書のなかで、国家総動員法の一部として労務報国会のもとで自ら奴隷狩りに加わり、その他の朝鮮人とともに1000人もの女性たちを「慰安婦」任務のために獲得したと告白している。
Ⅲ 特別報告者の作業方法と活動
45. 第2次世界大戦中のアジア地域における軍事的性奴隷の問題に関して、特別報告者は、政府および非政府組織の情報源から豊富な情報と資料を受け取った。そこには被害女性たちの証言記録がふくまれていたが、それらは調査団の出発前に注意深く検討された。本問題についての調査団の主要な目的は、特別報告者がすでに得ている情報を確かめ、すべての関係者と会い、さらにそのような完全な情報に基づいて国内的、地域的、国際的レベルにおける女性に対する暴力の現状、その理由と結果の改善に関して結論と勧告とを提出することであった。その勧告は、訪問先の国において直面する状況を特定したものになるかもしれず、あるいはグローバルなレベルで女性に対する暴力の克服を目指すもっと一般的な性格のものになるかもせれない。
46. 調査団の活動中、特別報告者がとくに心がけたのは、元「慰安婦」の要求を明確にすることと、現在の日本政府が本件の解決のためにどんな救済策を提案しつつあるのかを理解することであった。
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Ⅸ 勧告
136. 本特別報告者は、当政府との協力の精神に基づいて任務を果たし、かつ女性に対する暴力と、その原因および結果のより広範な枠組みのなかで、戦時の軍事的性奴隷の現象を理解するよう試みる目的のために以下のとおり勧告したい。特別報告者は、特別報告者との討議において率直であり、かつ日本帝国軍によって行われた軍事的性奴隷制の少数の生存女性被害者に対して正義にかなった行動をとる意欲をすでに示した日本政府に対し、協力を強く期待する。
A 国家レベルで
137. 日本政府は、以下を行うべきである。
(a)第2次大戦中に日本帝国軍によって設置された慰安所制度が国際法の下で
その義務に違反したことを承認し、かつその違反の法的責任を受諾すること
(b)日本軍性奴隷制の被害者個々人に対し、人権および基本的自由の重大侵
害被害者の原状回復、賠償および更正への権利に関する差別防止少数者
保護小委員会の特別報告者によって示された原則に従って、賠償を支払うこ
と。多くの被害者がきわめて高齢なので、この目的のために特別の行政的審
査会を短期間内に設置すること。
(c)第2次大戦中の日本帝国軍の慰安所および他の関連する活動に関し、日本
政府が所持するすべての文書および資料の完全な開示を確実なものにする
こと。
(d)名乗り出た女性で、日本軍性奴隷制の女性被害者であることが立証される
女性個々人に対し、書面による公的謝罪ををなすこと。
(e)歴史的現実を反映するように教育課程を改めることによって、これらの問題
についての意識を高めること。
(f)第2次大戦中に、慰安所への募集および収容に関与した犯行者をできる限り
特定し、かつ処罰すること。
B 国際的レベルで
138. 国際的レベルで活動している非政府組織・NGOは、これらの問題を国連機構内に提起し続けるべきである。国際司法裁判所または常設仲裁裁判所の勧告的意見を求める試みもなされるべきである。
139. 朝鮮民主主義人民共和国および大韓民国は、「慰安婦」に対する賠償の責任および支払いに関する法的問題の解決をうながすよう国際司法裁判所に請求することができる。
140. 特別報告者は、生存女性が高齢であること、および1995年が第2次大戦終了後50周年であるという事実に留意し、日本政府に対し、ことに上記勧告を考慮に入れて、できる限り速やかに行動を取ることを強く求める。特別報告者は、戦後50年が過ぎ行くのを座視することがなく、多大の被害を被ったこれらの女性の尊厳を回復すべきときであると考える。
一部読点を省略または追加したり、改行を変更したりしています。青字が書名や抜粋部分です。赤字は特に記憶したい部分です。