下記は、「核燃サイクルの闇 イギリス・セラフィールドからの報告」秋元健治(現代書館)の中の「Ⅶ 不可解な死──ガンと白血病に苦しむ人びと──」から抜粋したものである。放射線被曝をガンや白血病の原因として断定することは困難のようであるが、たとえば、高速増殖炉とその専用の再処理工場のあるスコットランド北端のドーンレイ周辺における小児白血病での死亡率が、全国平均の10倍にも達するという事実は、その因果関係が否定できないものであることを示しているのではないかと思う。
ウィンズケール・ファイヤーによって放出された放射性物質は、イギリス本土南部からヨーロッパ大陸の北部にまでおよび、最も健康に影響の心配されるヨウ素131は、幅およそ16キロ、南北方向におよそ50キロ、総面積518万平方キロの牧草地を汚染したため、事故の4日後に、牛乳の出荷が禁止されたとう。即刻禁止すべきだったことは、言うまでもない。
「四番目の恐怖」広瀬隆・広河隆一(講談社)に、スリーマイル島の事故後、メアリー・オズボーンという女性が採集したという巨大なタンポポの葉のカラー写真が掲載されている。また、チェルノブイリ原発の事故後、ミュンヘン公園の庭師がミュンヘン放射能検査所長のエッカード・クリューゲル博士のもとに持ち込んだという、巨大なタンポポの葉のカラー写真もある。それらは、放射能の恐ろしさを物語る衝撃的なものである。
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Ⅶ 不可解な死──ガンと白血病に苦しむ人びと──
(i)”ウィンズケール・ファイヤー”の犠牲者
1957年10月の”ウィンズケール・ファイヤー”の際、大量の放射性ヨウ素131が大気中に放出された。この日、セラフィールドに2基ある軍用プルトニウム生産炉の1つが火災となり、鎮火のため原子炉に水が注入された。そのとき発生した強い放射能を帯びた水蒸気が高い煙突を通って大気中に拡がった。この事故の環境への影響を問われたとき、原子力関係機関の専門家は、フォールアウト(放射性降下物)は危険とされる範囲内で、事故に起因する健康被害を常に否定してきた。しかし、セラフィールド(ウィンズケール)周辺でガンを発症した肉親をもつ家族らは、彼らの娘や息子の死は1957年の事故か、そうでないとしてもこの核施設の放射能被害ではないかと疑ってきた。
ウィンズケール周辺地域で、1957年の数年後、白血病などのガンで何人も死亡している。ここでは、若くして亡くなった3人の女性を、地方紙の記事から紹介する。
グラハム夫妻は、32歳で胃ガンのため亡くなった娘バーブラの早すぎる死は、”ウィンズケール・ファイヤー”ろ関係があると信じて疑わない。バーブラとほぼ同年齢で彼女の2人の友だち、エリザベス・フォックスとブレンダ・プリットもまた早くに死亡している。3人の娘たちは、ウィンズケールから遠くないプートルの海岸にほど近いモンク・モーアス農場で暮らしていた。1957年10月のウィンズケール火災事故の当時、彼女たちは皆、まだ10歳くらいだった。エリザベスは17歳のとき白血病で亡くなり、またブレンダもホジキン病で25歳のとき死亡している。
・・・
過去、セラフィールド(ウィンズケール)では、労働被爆や事故による放射能漏洩が幾度も繰り返された(たとえば、1973年9月B204前処理施設発火事故、高濃度放射能溶液漏洩・揮発性ルテニウムによる汚染、1977年7月B38放射性廃棄物貯蔵タンクから推定2000ガロンの放射性廃液漏れ、1977年10月固体廃棄物貯蔵庫から大気中へ、セシウム137とストロンチウム90の漏れ、1979年B701からの高レベル放射性廃液漏洩ー計算では漏洩放射能は10万キュリー以上などなど)。またアイリッシュ海へ伸びる海洋放出管を通じて海中へ放射性廃液を流し、大気中へは高い煙突から日常的に放射能を排出してきた。人的ミスなどさまざまな原因での事故、あるいは施設の操業上の理由から計画的に環境を放射能で汚染してきた。
イギリスでは核産業の軍事的性格とともに原発開発の先駆性、つまり核という未完の研究開発の環境を用意する必要性から、他国と比べるとかなり緩い放射能排出基準が1989年くらいまで維持された。その結果、現在ではアメリカやフランス、日本などではとうてい許されない”合法的な”環境への放射能排出が長年続けられた。古い歴史を経たいくつもの老朽化した施設の並存するセラフィールドでは、過去、放射能漏洩や被爆をともなう事故はきわめて多い。
セラフィールドで発生する事故は、すべてでないにしろ隠蔽される。しかしそれが隠せないほどの程度であるなら、その影響を可能な限り過小評価しようとされた。また放射線被曝と白血病の発症など、因果関係の立証がきわめて困難である元労働者やその遺族の訴えを、核施設の責任者は一貫して否定する。放射能漏洩や被爆事故の度ごとに、事業者や国の原子力関係機関から発せられる常套句は次のようなものだった。
「環境へ漏洩した放射能は、きわめて微量で、安全上なんら問題はない。放射能は、国内放射線防護委員会の定める安全基準以下のわずかな程度だ。したがって健康への影響は無視できるほど小さい」
しかしこうした権威ある専門家、政府機関の発表や宣言にもかかわらず、けっして人口の多くないセラフィールド(ウィンズケール)周辺の人びとは、彼らの近辺で過去、小児白血病や核労働者のガンによる死を目にし、その類の噂を耳にしてきた。…
・・・
(ii)放射能の大地と海
セラフィールド(ウィンズケール)からの放射性廃液は、アイリッシュ海の沖合に伸びる海洋放出管から海に投棄されていた。廃液は通常、低レベル放射性廃液であったが、高いレベルの放射性廃液も海洋放出管から投棄されることがあった。軍事目的で始まったイギリスの核開発では、放射性廃液を海中に投棄、拡散希釈させる方法が当然のようにとられてきた。使用済み燃料の再処理過程に投入される溶媒抽出液は、濃縮減量後、ステンレス製タンクに貯蔵される。低レベル放射性廃液は、放射能を低減させてから海中に放流する。1980年代まで、中レベル廃液の海への放出も認められていた。また燃料貯蔵プール水などの低レベル廃液は特別処理せず、そのままアイリッシュ海に放出されていた。
・・・
1979年10月、著名な医学者であるマンチェスター大学のコキン・ジェーリィー博士が、北ランカシャーでガンの危険性が高いことを明らかにした。ジェーリィー博士は、地域のガンの発症はウィンズケールからの放射能が原因という推測にたっている。調査は、ランカシャーとセント・アネスの2つの地区、ここでの血液のガンの患者数は全国平均の3倍である。そして5つの周辺の街で、2倍になっている。それらの街は、ブラックプール、ブラックバーリン、バーンレイ、ランカシャー、それとプレストンだった。1965年から12年間でそうした結果となっている。ジェーリィー博士の主張は明確だった。「これらの地域でガン患者数が増加していることが実証された。私たちは、環境要因の可能性を調査、分析した。そしてウィンズケールは、地域におけるガン患者数増加を説明できる唯一の原因とかんがえられる」
ジェーリィー博士は、その当時、ある新聞報道に非常に興味をもった。その記事は、バロー・イン・ファーネスの開業医が6つの非常に珍しいガンの症例を取り扱ったことを伝えていた。その匿名の医者は、それらのガンの原因として放射能だと考えていた。
白血病の分野で著名なジョン・ゴールドマン博士は、ジェーリィー博士の調査についてコメントしている。
「ジェーリィー博士の結論は、ウィンズケールからの放射能が地域の白血病のいくつかを引き起こしているという。彼の観察はきわめて重要である。白血病が、低レベルの放射線被曝によっても発症する可能性を示唆している。ジェーリィー博士の調査で、人口150万人において1年間25人の白血病患者の数は多い。それは確かに考慮されなくてはならない。ウィンズケールとガンとの関連性が、より現実的なものとなった。ジェーリィー博士は、地域のガン増加の原因はウィンズケールという可能性を示したが、私が思うに誰もそれに強く反論はできないだろう」
ゴールドマン博士は、ランカシャーにおけるガン患者の高い増加率はクラスターだとする英国核燃料公社の主張を否定した。ゴールドマン博士は言う。
「クラスターでは、このことは説明できない。クラスターとは、地理的に非常に狭い地域で用いられる。おそらく10マイルほどの地域内での異常な増加をいう。したがってランカシャーのガンの増加を、クラスターと呼ぶことはできない。ただしガンの発症は、化学物質も関連している可能性がある。とくにベンゼンなどの関連性は否定できない。しかし私は、主要な原因は放射能だと思う。それが原因である可能性が最も大きいだろう」
ジェーリィー博士の報告は、マンチェスター大学理学部のフィリップ・デイ博士が実施したウィンズケール沖、アイリッシュ海の甲殻類、貝の調査結果にも言及している。デイ博士は、アイリッシュ海の軟体動物における放射能汚染の調査と、海水と魚における政府の放射能モニタリング報告書から人びとの放射線被曝を推測した。その結果、北西イングランド、カンブリア地方の人びと放射線被曝は、過去10年から15年にかけて確実に上昇してきたという。デイ博士は、次のように警告している。
「イギリス核産業の労働者は、国際放射線防護委員会が設定した限度内で働いている。しかしその基準は、誰にとっても安全であるという保証はどこにもない。安全基準は安全ではないことだ」
デイ博士の調査は、イギリス近海と北ヨーロッパの貝の比較分析もおこなった。それらの調査から、ウィンズケールが排出する放射能廃液は、潮流に乗って南方へ移動している。それを示す政府データも確認したとデイ博士は言う。
「調査分析の結論として、放射能汚染は、ランカスター、チェシュアー、北海の北スコットランドの海岸に沿って発見された。人間の健康に関して、放射線被曝の境界、これ以下なら安全だとする”しきい値”を仮定することは、危険である。”しきい値”を下回る放射線被曝は、安全を確実にするものではない。もし、”しきい値”を仮定するなら、現在よりもさらに厳しい基準が必要だろう」
・・・
1983年ヨークシャー・テレビは、カンブリア地方のガンの発生を調査した結果、セラフィールド周辺で小児性白血病の多発を確認した。セラフィールドの南側、アイリッシュ海に面したシースケールでは、子供が白血病になり死亡する率が、国内平均の10倍だった。1983年11月1日、ヨークシャー・テレビは、地域の人びとのインタビューをなどをもとに、セラフィールドと白血病などガンとの関連性をテーマに、”ウィンズケール・核の洗濯場”というドキュメンタリー番組を放送した。セラフィールド周辺に生活する人びとに、衝撃が走った。このドキュメンタリーは、それ以前に発表された専門的報告書と異なり、人びとに放射能の身近な恐怖を実感させた。住民たちが、心の奥底にしまい込んでいた不安と怖れが噴出した。この番組の社会的反響は非常に大きく、放射能と白血病の因果関係をめぐる大論争がイギリス国内に沸き起こった。小児白血病での死亡率が、国内平均の10倍という地域はもう一つあった。それは高速増殖炉とその専用の再処理工場のあるスコットランド北端のドーンレイ周辺であった。
ヨークシャー・テレビは、番組制作に1年を費やし地域の調査をおこなった。制作スタッフは、セラフィールド周辺のシースケール、ウェバース、ブードルでは、小児白血病の発生率が、全国平均発生率の5倍から10倍の高さなのを確認した。特に核施設の南側のアイリッシュ海に臨むシースケールでは、10歳以下の白血病発生率が平均の10倍にも達していた。人口2000人のシースケールでは、1983年までの30年間で、ガンを発病した子供が11人もおり、そのうち7人が白血病で、しかも10歳以下の子供が5人も含まれていた。またセラフィールドからシースケールのさらに南方、入江の美しい景観で知られるレイベングラスでは、クリストファー家の掃除機の埃にプルトニウムが検出された。
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。「・・・」は段落の省略を「……」は、文の一部省略を示します。
ウィンズケール・ファイヤーによって放出された放射性物質は、イギリス本土南部からヨーロッパ大陸の北部にまでおよび、最も健康に影響の心配されるヨウ素131は、幅およそ16キロ、南北方向におよそ50キロ、総面積518万平方キロの牧草地を汚染したため、事故の4日後に、牛乳の出荷が禁止されたとう。即刻禁止すべきだったことは、言うまでもない。
「四番目の恐怖」広瀬隆・広河隆一(講談社)に、スリーマイル島の事故後、メアリー・オズボーンという女性が採集したという巨大なタンポポの葉のカラー写真が掲載されている。また、チェルノブイリ原発の事故後、ミュンヘン公園の庭師がミュンヘン放射能検査所長のエッカード・クリューゲル博士のもとに持ち込んだという、巨大なタンポポの葉のカラー写真もある。それらは、放射能の恐ろしさを物語る衝撃的なものである。
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Ⅶ 不可解な死──ガンと白血病に苦しむ人びと──
(i)”ウィンズケール・ファイヤー”の犠牲者
1957年10月の”ウィンズケール・ファイヤー”の際、大量の放射性ヨウ素131が大気中に放出された。この日、セラフィールドに2基ある軍用プルトニウム生産炉の1つが火災となり、鎮火のため原子炉に水が注入された。そのとき発生した強い放射能を帯びた水蒸気が高い煙突を通って大気中に拡がった。この事故の環境への影響を問われたとき、原子力関係機関の専門家は、フォールアウト(放射性降下物)は危険とされる範囲内で、事故に起因する健康被害を常に否定してきた。しかし、セラフィールド(ウィンズケール)周辺でガンを発症した肉親をもつ家族らは、彼らの娘や息子の死は1957年の事故か、そうでないとしてもこの核施設の放射能被害ではないかと疑ってきた。
ウィンズケール周辺地域で、1957年の数年後、白血病などのガンで何人も死亡している。ここでは、若くして亡くなった3人の女性を、地方紙の記事から紹介する。
グラハム夫妻は、32歳で胃ガンのため亡くなった娘バーブラの早すぎる死は、”ウィンズケール・ファイヤー”ろ関係があると信じて疑わない。バーブラとほぼ同年齢で彼女の2人の友だち、エリザベス・フォックスとブレンダ・プリットもまた早くに死亡している。3人の娘たちは、ウィンズケールから遠くないプートルの海岸にほど近いモンク・モーアス農場で暮らしていた。1957年10月のウィンズケール火災事故の当時、彼女たちは皆、まだ10歳くらいだった。エリザベスは17歳のとき白血病で亡くなり、またブレンダもホジキン病で25歳のとき死亡している。
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過去、セラフィールド(ウィンズケール)では、労働被爆や事故による放射能漏洩が幾度も繰り返された(たとえば、1973年9月B204前処理施設発火事故、高濃度放射能溶液漏洩・揮発性ルテニウムによる汚染、1977年7月B38放射性廃棄物貯蔵タンクから推定2000ガロンの放射性廃液漏れ、1977年10月固体廃棄物貯蔵庫から大気中へ、セシウム137とストロンチウム90の漏れ、1979年B701からの高レベル放射性廃液漏洩ー計算では漏洩放射能は10万キュリー以上などなど)。またアイリッシュ海へ伸びる海洋放出管を通じて海中へ放射性廃液を流し、大気中へは高い煙突から日常的に放射能を排出してきた。人的ミスなどさまざまな原因での事故、あるいは施設の操業上の理由から計画的に環境を放射能で汚染してきた。
イギリスでは核産業の軍事的性格とともに原発開発の先駆性、つまり核という未完の研究開発の環境を用意する必要性から、他国と比べるとかなり緩い放射能排出基準が1989年くらいまで維持された。その結果、現在ではアメリカやフランス、日本などではとうてい許されない”合法的な”環境への放射能排出が長年続けられた。古い歴史を経たいくつもの老朽化した施設の並存するセラフィールドでは、過去、放射能漏洩や被爆をともなう事故はきわめて多い。
セラフィールドで発生する事故は、すべてでないにしろ隠蔽される。しかしそれが隠せないほどの程度であるなら、その影響を可能な限り過小評価しようとされた。また放射線被曝と白血病の発症など、因果関係の立証がきわめて困難である元労働者やその遺族の訴えを、核施設の責任者は一貫して否定する。放射能漏洩や被爆事故の度ごとに、事業者や国の原子力関係機関から発せられる常套句は次のようなものだった。
「環境へ漏洩した放射能は、きわめて微量で、安全上なんら問題はない。放射能は、国内放射線防護委員会の定める安全基準以下のわずかな程度だ。したがって健康への影響は無視できるほど小さい」
しかしこうした権威ある専門家、政府機関の発表や宣言にもかかわらず、けっして人口の多くないセラフィールド(ウィンズケール)周辺の人びとは、彼らの近辺で過去、小児白血病や核労働者のガンによる死を目にし、その類の噂を耳にしてきた。…
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(ii)放射能の大地と海
セラフィールド(ウィンズケール)からの放射性廃液は、アイリッシュ海の沖合に伸びる海洋放出管から海に投棄されていた。廃液は通常、低レベル放射性廃液であったが、高いレベルの放射性廃液も海洋放出管から投棄されることがあった。軍事目的で始まったイギリスの核開発では、放射性廃液を海中に投棄、拡散希釈させる方法が当然のようにとられてきた。使用済み燃料の再処理過程に投入される溶媒抽出液は、濃縮減量後、ステンレス製タンクに貯蔵される。低レベル放射性廃液は、放射能を低減させてから海中に放流する。1980年代まで、中レベル廃液の海への放出も認められていた。また燃料貯蔵プール水などの低レベル廃液は特別処理せず、そのままアイリッシュ海に放出されていた。
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1979年10月、著名な医学者であるマンチェスター大学のコキン・ジェーリィー博士が、北ランカシャーでガンの危険性が高いことを明らかにした。ジェーリィー博士は、地域のガンの発症はウィンズケールからの放射能が原因という推測にたっている。調査は、ランカシャーとセント・アネスの2つの地区、ここでの血液のガンの患者数は全国平均の3倍である。そして5つの周辺の街で、2倍になっている。それらの街は、ブラックプール、ブラックバーリン、バーンレイ、ランカシャー、それとプレストンだった。1965年から12年間でそうした結果となっている。ジェーリィー博士の主張は明確だった。「これらの地域でガン患者数が増加していることが実証された。私たちは、環境要因の可能性を調査、分析した。そしてウィンズケールは、地域におけるガン患者数増加を説明できる唯一の原因とかんがえられる」
ジェーリィー博士は、その当時、ある新聞報道に非常に興味をもった。その記事は、バロー・イン・ファーネスの開業医が6つの非常に珍しいガンの症例を取り扱ったことを伝えていた。その匿名の医者は、それらのガンの原因として放射能だと考えていた。
白血病の分野で著名なジョン・ゴールドマン博士は、ジェーリィー博士の調査についてコメントしている。
「ジェーリィー博士の結論は、ウィンズケールからの放射能が地域の白血病のいくつかを引き起こしているという。彼の観察はきわめて重要である。白血病が、低レベルの放射線被曝によっても発症する可能性を示唆している。ジェーリィー博士の調査で、人口150万人において1年間25人の白血病患者の数は多い。それは確かに考慮されなくてはならない。ウィンズケールとガンとの関連性が、より現実的なものとなった。ジェーリィー博士は、地域のガン増加の原因はウィンズケールという可能性を示したが、私が思うに誰もそれに強く反論はできないだろう」
ゴールドマン博士は、ランカシャーにおけるガン患者の高い増加率はクラスターだとする英国核燃料公社の主張を否定した。ゴールドマン博士は言う。
「クラスターでは、このことは説明できない。クラスターとは、地理的に非常に狭い地域で用いられる。おそらく10マイルほどの地域内での異常な増加をいう。したがってランカシャーのガンの増加を、クラスターと呼ぶことはできない。ただしガンの発症は、化学物質も関連している可能性がある。とくにベンゼンなどの関連性は否定できない。しかし私は、主要な原因は放射能だと思う。それが原因である可能性が最も大きいだろう」
ジェーリィー博士の報告は、マンチェスター大学理学部のフィリップ・デイ博士が実施したウィンズケール沖、アイリッシュ海の甲殻類、貝の調査結果にも言及している。デイ博士は、アイリッシュ海の軟体動物における放射能汚染の調査と、海水と魚における政府の放射能モニタリング報告書から人びとの放射線被曝を推測した。その結果、北西イングランド、カンブリア地方の人びと放射線被曝は、過去10年から15年にかけて確実に上昇してきたという。デイ博士は、次のように警告している。
「イギリス核産業の労働者は、国際放射線防護委員会が設定した限度内で働いている。しかしその基準は、誰にとっても安全であるという保証はどこにもない。安全基準は安全ではないことだ」
デイ博士の調査は、イギリス近海と北ヨーロッパの貝の比較分析もおこなった。それらの調査から、ウィンズケールが排出する放射能廃液は、潮流に乗って南方へ移動している。それを示す政府データも確認したとデイ博士は言う。
「調査分析の結論として、放射能汚染は、ランカスター、チェシュアー、北海の北スコットランドの海岸に沿って発見された。人間の健康に関して、放射線被曝の境界、これ以下なら安全だとする”しきい値”を仮定することは、危険である。”しきい値”を下回る放射線被曝は、安全を確実にするものではない。もし、”しきい値”を仮定するなら、現在よりもさらに厳しい基準が必要だろう」
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1983年ヨークシャー・テレビは、カンブリア地方のガンの発生を調査した結果、セラフィールド周辺で小児性白血病の多発を確認した。セラフィールドの南側、アイリッシュ海に面したシースケールでは、子供が白血病になり死亡する率が、国内平均の10倍だった。1983年11月1日、ヨークシャー・テレビは、地域の人びとのインタビューをなどをもとに、セラフィールドと白血病などガンとの関連性をテーマに、”ウィンズケール・核の洗濯場”というドキュメンタリー番組を放送した。セラフィールド周辺に生活する人びとに、衝撃が走った。このドキュメンタリーは、それ以前に発表された専門的報告書と異なり、人びとに放射能の身近な恐怖を実感させた。住民たちが、心の奥底にしまい込んでいた不安と怖れが噴出した。この番組の社会的反響は非常に大きく、放射能と白血病の因果関係をめぐる大論争がイギリス国内に沸き起こった。小児白血病での死亡率が、国内平均の10倍という地域はもう一つあった。それは高速増殖炉とその専用の再処理工場のあるスコットランド北端のドーンレイ周辺であった。
ヨークシャー・テレビは、番組制作に1年を費やし地域の調査をおこなった。制作スタッフは、セラフィールド周辺のシースケール、ウェバース、ブードルでは、小児白血病の発生率が、全国平均発生率の5倍から10倍の高さなのを確認した。特に核施設の南側のアイリッシュ海に臨むシースケールでは、10歳以下の白血病発生率が平均の10倍にも達していた。人口2000人のシースケールでは、1983年までの30年間で、ガンを発病した子供が11人もおり、そのうち7人が白血病で、しかも10歳以下の子供が5人も含まれていた。またセラフィールドからシースケールのさらに南方、入江の美しい景観で知られるレイベングラスでは、クリストファー家の掃除機の埃にプルトニウムが検出された。
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/ に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に換えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。「・・・」は段落の省略を「……」は、文の一部省略を示します。