真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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パル判決書 NO2

2016年03月20日 | 国際・政治

 極東国際軍事裁判(東京裁判)において連合国が派遣した判事の一人でインド代表のラダ・ビノード・パルは、自身の意見書(通称『パル判決書』)の「第六部、厳密なる意味における戦争犯罪」の中の「俘虜に関する訴因」でも下記のように、重要なことを書いています(「パル」は「パール」とも表現されていますが、引用元の表現にしたがっています)。

 パルが東京裁判の被告全員が無罪であると主張したのは、俘虜(捕虜)に対する残虐行為がなかったからではないのです。彼は「俘虜の虐待が各種の方法で行われたことを立証する証拠は圧倒的である」と認めています。そして、その証拠を詳細に論ずる必要もないというのです。ただ、「これらの残虐行為の実行者はいまここにはいない」というわけです。そして、「現在われわれの目前には、これと異なった一組の人々がいる」として、彼らにその責任が及ぶのかどうかを詳細に論じ、無罪であると結論づけたのです。
 したがって、「仕組まれた”南京大虐殺”攻略作戦の全貌とマスコミ報道の怖さ」(展転社)の著者大井満氏の、下記のような指摘は的外れであると思います。
 大井氏は、同所のの第九章「虐殺話のそもそもの源」の二、「東京裁判」の中に次のように書いています。
” 結局東京裁判は、
「法的外観をもとってはいるが、本質的に政治目的を達成するための方便にすぎない」というパール判事や、フランスのベルナール判事の言を今一度思い起こすべきである。また
「連合国の最高司令官とはいえ、勝手に法を制定することは許されない」
 とのパール判事の判決文も至言であり、さらに、これも当初から指摘されていたのだが、法の鉄則たる「不遡及の原則」を無視し、勝手に作った法をもって日本の過去を遡って裁いたという大きな誤りも犯した。
 とにかくここで南京事件のみに焦点を絞ったが、東京裁判そのものがまことに不条理、不公正であり、裁きとは言えぬ裁きであった。これはパール判事、レーチンク判事、ベルナール判事などの言を待つまでもなく、証言や証拠書類、そしてその扱い一つを見ても分かることで、その後も国際法の権威英国のハンキー卿、米国最高裁のダグラス判事など、世界の法学者がひとしくその不法性を認めるところである。
 したがって、
「東京裁判で事実とされたのだから、南京事件は本当にあったのだ」
というような論法は、まったく成り立たない。これだけは明白である。”

 パルは、南京事件はなかったから、被告が無罪であると主張したのではないことをしっかりと受け止めなければならないと思います。

 田中正明氏は、『パール判事の日本無罪論』(小学館文庫)の「序にかえて」の中で、下記のような貴重なエピソードを紹介しています。
 ”・・・
 …博士が再度訪日されたとき、朝野の有志が帝国ホテルで歓迎会を開いた。その席上ある人が「同情ある判決をいただいて感謝にたえない」と挨拶したところ、博士はただちに発言を求め、起ってつぎのとおり所信を明らかにした。
「私が日本に同情ある判決を行ったと考えるならば、それはとんでもない誤解である。私は日本の同情者として判決したものではなく、西欧を憎んで判決したのでもない。真実を真実と認め、これに対する私の信ずる正しき法を適用したにすぎない。それ以上のものでも、また、それ以下のものでもない」
 日本に感謝される理由はどこにもない。真理に忠実であった、法の尊厳を守った、という理由で感謝されるならば、それは喜んでお受けしたい、というのである。”
 その意味するところもしっかり受け止めなければならないと思います。彼は徹底して法にしたがい、被害者の証言も冷静に受け止めて鵜呑みにせず、「疑わしきは罰せず」を貫き通したのではないかと思います。
 下記は、『「共同研究 パル判決書』東京裁判研究会(講談社学術文庫)からの抜粋です。
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               第六部 厳密なる意味における戦争犯罪
俘虜に関する訴因
 本官はこれから俘虜に関する起訴状訴因第五十四および第五十五の起訴事実を取り上げよう。
 すでに論及したように、これらの犯罪は起訴状付属書Dにあげられている。付属書Dの第一節ないし第八節は、右犯罪を列挙している。
 右犯罪は、付属書Dに引用された条約、保証および慣行中に存するものを含む戦争法規ならびに慣習に違反するものであるとされている。
 付属書Dにあげられている戦争法規ならびに慣習および条約、保証、慣行はつぎのとおりである。
 一、文明諸国民の慣行によって確立された戦争法規ならびに慣習。
 二、1907年10月18日、ハーグにおいて締結された陸戦の法規慣例に関する条約第四。
  (a)右条約の一部をなす付属書中に記載された規定。
 三、1907年10月18日、ハーグにおいて締結された海戦に関する条約第十。
 四、1929年7月27日、ジュネーブにおいて締結された俘虜の待遇に関する国際条約(以下においてはジュネーブ条約と称す)。
  (a)日本は右条約を批准しなかったが、日本を拘束するにいたった。
 五、1929年7月27日、ジュネーブにおいて締結された戦地軍隊の負傷兵の状態改善に関する国際条約(赤十字条約として知られているもの)。
 六、東郷外務大臣の署名した通牒による保証。
  (a)(一)1942年1月29日付東郷の署名した東京駐在スイス公使あてアメリカ人俘虜にたいし、ジュネーブ条約を「準用」するむね保証した通牒。
(二)1942年1月30日付東京駐在アルゼンチン公使宛、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド人俘虜にたいし、ジュネーブ条約を「準用」するむね保証した通牒、
  (b)1942年1月29日付日本は赤十字条約を厳格に遵守するむね保証した通牒。
  (c)1942年2月13日付東郷が署名した東京駐在スイス公使あて、帝国政府が相互条約のもとに現戦争中、1929年7月27日の条約の俘虜の待遇に関する諸規定を、敵国の抑留非戦闘員に適用するむね保証した通牒。
  (d)上記の諸保証は、日本外務大臣により縷次繰り返され、近くは1943年5月26日にもなされた。
 右諸条約ならびに保証の違反行為の細目については、検察側はこれを8節にわけて述べている。
 付属書Dの第一節は、1907年のハーグ条約第四の付属書第四条ならびに1929年のジュネーブ条約の全部および上述の諸保証に反する。非人道的待遇を訴追している。
 第二節は、上記ハーグ条約付属書第六条ならびにジュネーブ条約第三編および上述の諸保証に反する俘虜労働の違法な使用を訴追している。
 第八節は、上記ハーグ条約付属書第十五条、ならびにジュネーブ条約第三十一、四十二、四十四、七十八、八十六各条に反する利益保護国、赤十字社、俘虜およびその代表の権利の妨害行為を論じている。
 検察側は、その最終弁論において、つぎの諸点を立証したものと主張した。すなわち、
一、証拠があげられているところの戦争犯罪は事実上行われたこと。
二、右犯罪はある場合には、日本政府の政策の一部として行われたこと。
三、その残りの場合においては、右犯罪が行われてこと、もしくは行われなかったことにたいして、政府は無関心であったこと。
 検察側は、この場合「日本政府」という表現を、非常に広い意味で使い、たんに内閣閣員ばかりでなく、陸海軍高級将校、大使、および高級官公吏をもふくめている。
 俘虜の虐待が各種の方法で行われたことを立証する証拠は圧倒的である。この証拠を詳細に論ずることは、なんの役にも立たないであろう。これらの残虐行為の実行者はいまここにはいない。かれらのうち存命中で逮捕できた者は、連合軍によって適当に処分されている。
 現在われわれの目前には、これと異なった一組の人々がいる。かれらは戦争中、日本の国務を執っていた者であり、戦争を通じて行われたあの残忍なる残虐行為は、そのような残酷な方法で戦争を行うにさいし、かれらの発意で日本が採用したところの政策の結果にほかならないという理由で、右残虐行為の責任を問われんとしている者なのである。
 俘虜に関して行われたと称せられているところの犯罪行為は、全部おなじ種類のものではない。それらは全部が「ソレ自体」犯罪ではない。そのうちの一部は、条約と保証に違反するという理由で犯罪であるとされている。他のものは「ソレ自体」犯罪であるとされている。われわれは現在の目的のためにこれらを区別しておかなければならない。そしてこのような行為にたいして、現在の被告たちにどの程度の犯罪的責任があったとなしうるかをみきわめなければならない。
 検察側のカー氏は、つぎの諸点にもとづいて、われわれに被告に犯罪的責任があるとみなすよう求めている。すなわち、
一、(a) 日本政府は事実上1929年のジュネーブ条約によって拘束されていた。または
 (b) 右拘束がなかったとすれば
 (一)かれらは疑いもなく1907年のハーグ条約第四および第十の拘束を受けている。
 (二)これらのいっさいの条約は、たんに国際法の説明的宣言である。
二、(a) 俘虜は捕獲した政府の権力内におかれるものであって、かれらを捕らえた個人または部隊の権力内にあるものではない。
 (b)(一) 政府もしくは、その一員は、責任をある一省に転嫁せんとすることによってこれを回避することはできない。
 (二) 主要責任は、個々の政府員全部にある。
 ・・・

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