ウクライナ戦争以降、私はアメリカという国の対外政策や外交政策の問題を取り上げ続けています。
なぜならアメリカは、国内では民主主義にもとづいた体制を維持しながら、他国に対しては(ファイブアイズといわれるような国を除いて)露骨に内政に干渉したり、主権を侵害したりしてきたからです。
すでに取り上げたように、アメリカは第二次世界大戦末期に、対日参戦したソ連極東軍の満洲・朝鮮半島への急速南下と、それによる占領地域管理の既成事実化を危惧し、ソ連軍占領地域の拡大を抑止することによって、共産主義的勢力圏が極東に浸透することを防ごうと、朝鮮半島を38度線で横に割って、米ソ両軍が分割占領・管理する計画を立て、実行しました。
そして、朝鮮の人たちが進めていた南北合一の「朝鮮人民共和国」の独立を支援することなく、逆にそれを潰すために、李承晩を立てて南朝鮮単独政府を樹立させました。その過程で、「朝鮮人民共和国」の独立に取り組んでいた大勢の人たちを捕え、拘束し、虐殺さえしました。国連の信託統治の精神に基づけば、アメリカは「朝鮮人民共和国」の独立を支え、援助する立場にあったと思います。
その朝鮮に対するアメリカの内政干渉や主権侵害と同じようなことが、日本でもありました。それが、砂川事件における東京地裁判決(伊達判決)を覆すアメリカの工作です。アメリカの主導で、東京地裁判決(伊達判決)を覆し、アメリカに都合のよい最高裁判決を出させたのです。
下記を読めば、アメリカが他国の裁判所の判決さえ覆し、内政に干渉したり、主権を侵害したりしていることが分かると思います。
日本がアメリカによって主権を侵害されている事実は、伊達判決を覆した最高裁判決の他にもいろいろあるように思いますが、重大なのは、北方領土の問題です。
4年ほど前、北方領土の問題で、ロシアのプーチン大統領は、”ロシアが北方領土を日本に返した場合に米軍基地が置かれる可能性について、「日本の決定権に疑問がある」”と述べたといいます。それに対し、安倍元首相は、北方領土には米軍基地を置かない方針を伝えたというのですが、その方針は、プーチン大統領が、その実効性に疑問を呈したように、確実に実行可能な方針ではなかったと思います。
プーチン大統領は、米軍基地問題について、”日本が決められるのか、日本がこの問題でどの程度主権を持っているのか分からない”と指摘したということですが、日米関係の真相を掴んでいたのではないかと思います。
また、”平和条約の締結後に何が起こるのか。この質問への答えがないと、最終的な解決を受け入れることは難しいとし、北方領土に米軍基地が置かれる可能性を含め、日米安保体制がもたらすロシアの懸念が拭えていないとの認識を示した”(朝日新聞デジタル、プーチン氏「日本の決定権に疑問」喜田尚2018年12月21日)といいますが、安倍元首相は、日本人の悲願ともいえる北方領土の問題で、ロシアの懸念を払拭するような約束ができなかったのだと、私は思っています。
さらに、プーチン大統領は、”日本の決定権を疑う例として沖縄の米軍基地問題を挙げ、「知事が基地拡大に反対しているが、何もできない。人々が撤去を求めているのに、基地は強化される。みなが反対しているのに計画が進んでいる」と話した、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐる問題を指した発言だ。”とありますが、私は、図星だろうと思います。日本政府は自らの国のことを、自ら決めることができないのだと思います。
それは、戦後対日講和条約と日米安保条約の交渉を主導したダレスの言葉にはっきり示されていたと思います。ダレスは、”われわれは日本に、われわれが望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を獲得することができるかどうかが根本問題だ”という問題意識で交渉し、日米安保条約と日米行政協定(後の日米地位協定)によって、そうした日本の「全土基地化」と「基地の自由使用」という「特権」を得たのです。したがって、偏狭的とも言える愛国主義者の安倍元首相も、プーチン大統領の要求にきちんと応えられなかったので、北方領土の交渉が進められなかったのだと思います。
プーチン大統領すれば、日本が事実上米国の「従属国」になっているので、北方領土の返還には応じられないということだと私は思います。
今日は、朝からJ―アラート発表の報道が続き辟易しました。政府は、新潟、宮城、山形3県にJ―アラートを発表し、建物内や地下へ避難を呼び掛けました。
朝鮮中央通信(KCNA)によれば、北朝鮮は31日、米国と韓国に対し、域内での大規模な軍事演習を止めるよう要求したといいます。また、このような演習は挑発行為であり、北朝鮮からの「より強力な」対応につながる可能性があることを発表していたといいます。
でも、アメリカはそれを無視して、訓練を強行したことを見逃してはならないと思います。
そして、日本の主要メディアは、訓練のことにはほとんど踏み込まず、政府の決定に従って、北朝鮮のミサイルによる危機を煽りたて、防衛費を増額し、アメリカから高額な武器を次々に買い込んで、日本国民の富をアメリカに差し出すことに貢献しているように思います。
アメリカが、李承晩やゴ・ジン・ジェムやスハルトやマルコスといった独裁者を支援したのは、反政府勢力人民の虐殺さえ厭わない独裁者と結託すれば、搾取や収奪が可能だからではないかと私は想像しています。
アメリカが日本で、戦犯の公職追放を解除し、戦争指導層を復活させた理由も、そこにあるのだろうと私は考えます。アメリカにとっては、民主党政権のように、沖縄の人たちの思いを汲み取り、沖縄の基地を県外に移そうと意図したり、過去の「日米密約」の問題をほじくり返したりするような政権では都合が悪く、戦争指導層の思いを受け継ぎ、日本国民の思いに背を向け、日本国民の富をアメリカに差し出すことを厭わない自民党右派政権のほうがよいのだろうと思います。
安倍元首相以来、自民党右派政権は、国会を開かずに日本の将来を決定づけるような重要事項の閣議決定をくり返しています。そして、国会で予算審議もせず、10数兆円を超えるような税金を政府の権限で自由に使います。アメリカが支援してきた独裁国家のやりかただと思います。だから日本国民の富は、いろいろなかたちでアメリカに流れるのだろうと思います。
アメリカと韓国は31日、軍用機約240機を投入する合同訓練「ビジラント・ストーム」を韓国周辺で開始したといいますが、その訓練の問題はほとんど議論の対象になっていません。そして、北朝鮮のミサイル発射の危機ばかりが、く返し報道されています。そのこと自体が、私は危機的だと思います。話し合おうとする姿勢がないのです。
下記は「検証・法治国家崩壊 砂川裁判と日米密約交渉」吉田敏浩、新原昭治、末浪靖司(創元社)から、「一通の「極秘」電報」と、「東京地裁判決について話し合い」を抜萃しました。
日本の主権が侵されている事実が分かると思います。
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Part1 マッカーサー大使と田中最高裁超過
一通の「極秘」電報(1959年3月31日)
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皇太子成婚パレードを10日後にひかえた3月31日(火)の午後、東京のアメリカ大使館からワシントンの国務省へ、一通の秘密電報が発信されました。当時の駐日アメリカ大使ダグラス・マッカーサー二世(マッカーサー元帥の甥)からジョン・フォスター・ダレス国務長官にあてた、緊急の「極秘」公電(電報のかたちでやりとりされる公文書)です。(国務省での受信時間は3月31日午前Ⅰ時17分。日本時間では同日午後2時17分)
国務省はアメリカの外交関係をつかさどる政府機関。そのトップが国務長官です。日本の外務大臣にあたります。
なお、この公電は、共著者の新原昭治が2008年4月に、アメリカ国立公文書館で発見しました。アメリカの情報自由法にもとづき、秘密指定解除(30年をへた政府文書は原則として開示のうえ公開されたものです。このあと引用する一連の公電も同じ法律にもとづき公開されました。この「極秘」公電には、日本でその前日に出されたある判決に対し、アメリカ政府が重大な関心をよせていること、そしてなんとかその判決をひっくり返そうと、ひそかに日本政府の中枢に手をのばし始めたという、驚くべき事実が記されていました。
その冒頭の文章は、まるで映画のオープニングシーンのように始まります。
「〔私は〕今朝8時に藤山と会い、米軍の駐留と基地を日本国憲法に違反したとして東京地裁判決について話し合った。私は、日本政府が迅速な行動をとり、東京地裁判決を正すことの重要性を強調した」( 新原昭治・布川玲子訳、『砂川事件と田中最高裁長官』布川玲子・新原昭治編著 日本評論社
2013年)
このなかで「私」とあるのはマッカーサー大使、「藤山」とあるのは、当時の岸信介内閣の外務大臣だった藤山愛一郎のことです。
「米軍の駐留と基地を日本国憲法違反とした東京地裁判決」とは、前日の3月30日に、東京地方裁判所で言い渡された「砂川事件」無罪判決をさします。
電文はさらにつづきます。
「私はこの判決が、藤山が重視している安保条約についての協議に複雑さを生みだすだけでなく、4月23日の東京、大阪、北海道その他でのきわめて重要な知事選挙を前にしたこの重大な時期、国民の気持ちに混乱を引き起こしかねないとの見解を表明した」(同前)
この公電は「極秘」に指定されています。アメリカ政府解禁秘密文書の秘密区分には、第二次世界大戦後、機密度の高い順から「トップ・シークレット(機密)」「シークレット(極秘)」「コンフィデンシャル(秘)」「オフィシャル・ユース・オンリー(部外秘)」という区分がもちいられています。しかし、驚きです。ここで外国の大使であるはずのマッカーサーは、赴任国の外務大臣である藤山に対して、
「あなたはこの判決が、現在協議中の安保条約の改訂作業に悪い影響をあたえることばかり心配しているが、よく考えてほしい。三週間後には、いくつもの大都市で知事選挙がおこなわれることになっている。この判決の問題を適切に処理しないと、そうした大切な選挙で自民党が負けてしまう可能性がある」
と、まるで上司のように、より広い視野から情報分析を語っているのです。そして最後に藤山に対して、間接的な表現ながら、次のような「指示」をあたえているのです。
「私は、日本の法制度のことをよく知らないものの、日本政府がとりうる方策は二つあると理解していると述べた。
1 東京地裁判決を上級裁判所(東京高裁)に控訴すること。
2、同判決を最高裁に直接、上告〔跳躍上告〕すること。
私は、もじ自分の理解がただしいなら、日本政府が直接に上告することが、非常に重要だと個人的には感じている。というのは、社会党や左翼勢力が上級裁判所(東京高裁)の判決を最終のものと受け入れることは決してなく、高裁への訴えは最高裁が最終判断を示すまで議論の時間を長引かせるだけのこととなろう。これは、左翼勢力や中立主義者らを益するだけであろうとのべた。
藤山は全面的に同意するとのべた。完全に確実とは言えないが、藤山は、今朝9時に開かれる閣議でこの上告を承認するようにうながしたいと語った」(同前)
いかがでしょうか。外国の大使が、赴任先の国の裁判所でだされた判決が不満だから、これを急いでくつがえすため、通常の上級裁判所(東京高裁)は飛ばして、いきなり最高裁へ上告しろと言っているのです。
普通では考えられません。このマッカーサー大使の行為は、露骨な内政干渉、主権侵害そのものといえます。
しかし、さらに驚くべきことは、そうした主権侵害を受けた藤山外務大臣の反応です。きわめてあっさりと、
「全面的に同意する」とのべ、
「このあと9時からの閣議でその方針を承認するようにうながしたい」
と外国の大使に約束しているのです。
この「極秘」公電であきらかなように、マッカーサー大使はこの日、
「朝8時から藤山と会い」
「東京地裁判決について話し合い」
「日本政府が迅速に東京地裁判決を正すことの重要性を強調した」のです。
つまりふたりが会ってから、「指示」が出され、それが閣議にかけられるまで、全部で1時間しか、かかっていないのです。
いったいなぜ、このような出来事が起こってしまったのでしょうか。
「米軍駐留は憲法違反」と明言した伊達判決
その背景を知るためには、この「極秘」公電が問題にしている「東京地裁判決」について、よく知っておく必要があります。
19ページにあるように、1957年、東京都砂川町(現立川市)にある米軍基地内に、数メートル入ったデモの参加者23人が逮捕され、そのうち7人が起訴されるという「砂川事件」が起こりました。
その裁判を担当した東京地裁刑事第13部(裁判長伊達雄、裁判官清水春三、裁判官松本一郎)は、判決のなかで「米軍駐留は憲法第9条違反」という前例のない判断を示しました。その判決の要点は、以下のとおりです。少し長くなりますが、きわめて重要な内容なので、最後まで読んでみてください。
「①憲法第9条は、日本が戦争をする権利も、戦力をもつことも禁じている。
一方、日米安保条約では、日本に駐留する米軍は、日本防衛のためだけでなく、極東における平和と安定の維持のため、戦略上必要と判断したら日本国内外にも出動できるとしている。その場合、日本が提供した基地は米軍の軍事行動のために使用される。その結果、日本が直接関係のない武力紛争にまきこまれ、戦争の被害が日本におよぶおそれもる。
したがって、安保条約によりこのような危険をもたらす可能性をもつ米軍駐留を許した日本政府の行為は、『政府の行為によってふたたび戦争の惨禍が起きないようにすることを決意』した日本国憲法の精神に反するのではないか。
②そうした危険性ををもつ米軍の駐留は、日本政府が要請し、アメリカ政府が承諾した結果であり、つまり日本政府の行為によるものだといえる。米軍の駐留は、日本政府の要請と、基地の提供と費用の分担などの協力があるからこそ可能なのである。
この点を考えると、米軍の駐留を許していることは、指揮権の有無、米軍の出動義務の有無にかかわらず、憲法第9条第2項で禁止されている戦力の保持に該当するものといわざるをえない。結局、日本に駐留する米軍は憲法上その存在を許すべきでないといえる。
③刑事特別法は、正当な理由のない基地内への立ち入りに対し、1年以下の懲役または2000円の罰金もしくは科料を課している。それは軽犯罪法の規定よりもとくに重い。しかし、米軍の日本駐留が憲法第9条第2項に違反している以上、国民に対し軽犯罪法の規定よりもとくに重い刑罰をあたえる刑事特別法の規定は、どんな人でも適正な手続きによらなければ刑罰を科せられないとする憲法第31条〔適正手続きの保障〕に違反しており、無効だ。したがって、全員無罪である」
判決当日の新聞各紙夕刊の一面には、「米軍駐留は憲法違反、砂川基地立ち入り、全員に無罪判決」などの大きな見出しが、かかげられました。この画期的な判決はのちに、伊達昭秋雄裁判長の名前をとって「伊達判決」と呼ばれるようになります。