こんな日にゴルフなんぞやろうなんていうのが、土台間違いだったのだ。「生命の危険なき限り決行。欠席する奴はエチケット知らず」 こういう案内状を出した奴の気が知れない。だいたい、個人プレーの筈なのに、団体遊技と化した世間の風潮が嘆かわしい。それでも、アウトの3番までは降りみ降らずみ、何とかなったが、それから先はもういけない。今や本降り雨ン中、ひたすら行軍、泥塊バッシャン、こちらは真っ黒。ボールはと見てとれば、雨の彼方へ優雅に飛んでいく。スコアなんて、もうどうでもいいから、早くクラブハウスに戻りたい。単なるつき合いで、こんな無益な労働を強いられるなんて不愉快極まりない。はっきり言って、ゴルフは嫌いだ。
やっとの思いで、懐かしのクラブハウスに到着。食事はカレーかミニステーキのランチしかないと言う。食欲はあまり無いが、水だけ頼む訳にもいかない。和服のウエイトレスにカレーを頼んだら、どういう訳かやけに待たせる。催促したら注文は伺っていませんとぬかしやがる。さては、さっきのウエイトレス、狐だったか、それとも目の錯覚か。ひょっとして、この世の綻びだったのかも知れぬ。こんな目にあうから、ゴルフは嫌いなのだ。
インの最初のホールは、打ち下ろし。豪快さだけが売り物らしい。雨はどうやら上がったが、今度は風が吹き出した。第1打は見事、大スライスだったが、風のおかげでフェアウエイをキープ。他人のいい当たりは全てOB。こういう時だけ、ゴルフは楽しい。しかし第2打は凄まじい勢いで右へすっ飛び、前方を見ていたキャディを直撃。ソケットの感じは無かったので、風のせいなんだろう。キャディは歩けそうもないというので、仕方なくキャディバックを自分で担ぐ。こんなことになるから、ゴルフが嫌いになるのだ。
次のホール辺りからは、スライスもフックも風まかせ。小砂眼入してプレーどころではなくなった。前方を見ると、先発組もグリーンサイドにしゃがみこんで、風よけをしているらしい。こんな異常気象は滅多に無いのだが、ウエザーコントロールの奥深く潜んでいたバグが暴れ出したのだろう。こんな日でも、他の奴はゴルフ嫌いにならないのだろうか。
風が少し止んだのでプレー続行。次に向かったのは、真っ直ぐ、広々、平坦のドラコン向きのホール。思いっきりボールをひっぱたいたら、爆発音がして煙がたなびいた。間違ってスモークボールを打ったのかと思ったが、クラブのヘッドまですっ飛んでいた。どこで損するか分かったものじゃない。まったく、ゴルフなんて大嫌いだ。
ゴルフの楽しみは、一風呂浴びた後、その日の成績をサカナに飲むことだと、皆は言っている。本当だろうか。アルコールが苦手な上に、ブービー賞さえ取れない有様で、無理して残っていても、何も楽しいことはない。結局、適当な理由をでっちあげて、先に帰ることにした。クラブバスは直ぐに出発、それじゃ皆さん、お先に失礼と思った途端、最初のカーブを曲がり損ねてバスは空中に飛び出した。
気がつくと、病院の床の上に寝かされていた。事故のことが頭をよぎったが、それにしては怪我人が多すぎる。ベッドも足りないのだろう。突然、床が大きく揺れた。「地震だ」思わず、そう叫ぶと、隣に寝かされていた中年男が「余震だな」とつぶやき、それから、おもむろにこちらを向いた。「あんた、プレイランドに居たんだってね。本物そっくりのゴルフのシュミレーションゲームやってるとこだろう。でも、あんた運がいいよ。地震でプレイランドは全壊。生存者は殆どいないって話だから」 だから、ゴルフは・・・・。