名前すら知らない初めて読む作家の本。
「革命前夜」 須賀しのぶ著 第18回大藪晴彦賞受賞。
冷戦下の東ドイツドレスデンへ音楽留学し、ピアニストを目指す青年真山柊史が主人公。
1989年東西を分断する壁が崩壊していくまでの人間模様が切々と描かれている。
単行本にして500ページ近い大作、歴史的小説ともいえる。
前半はドレスデンの音楽学校で、同世代の個性的な音楽家たちと出会い、刺激されるも、
彼らの激しい気性に振り回され、自分の音を見つけるために苦悩するマヤマシュウジが描かれる。
スト-リーはピアノ曲、ヴァイオリン曲と共に進んでいく。と言ってももちろん本から音が出るわけではない。
音楽を言葉で巧みに表現する作家の技量に驚くとともに、是非その曲を聴いてみたくなる。
こういう時、インターネットはとても便利だ。YU-TUBEでその曲を探し読書のBGMとする。
前半はやや退屈な個所もあるが、小説に出てくる音楽を聴きながらの読書なんて、なんと贅沢な!
バッハ/平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第1番 ハ長調
中盤以降はミステリアスな展開が続き、物語としての面白みにぐんぐん引き込まれる。
ハンガリー、チェコスロバキア、西側オーストリアを巻き込み東欧圏の民主化運動は過熱していく。
その不穏な情勢の中で音楽仲間たちはそれぞれに東ドイツ改革のために奔走する。
一介の留学生であるシュウジもその渦に次第に巻きこまれていく。
そして1989年11月9日の夜、ベルリンの壁はついに崩壊。
全世界のテレビに映し出されたあの劇的瞬間が脳裏に蘇り、感動に心が震えた!
奇しくも私は旧東ドイツと現在の統一ドイツ、両方の風景を知っている。
1980年訪れた時はまだ東ドイツ東ベルリン、2008年は壁崩壊から9年が経った統一ドイツ。
街の風景はがらりと変わり、眼を見張るものがあった。
この本を読み、1980年の厳しい統制下の東ベルリンの暗い光景が思い出され感無量。
重い内容ではあるが知的好奇心をも満足させ一気に読了、読み甲斐のある本だった。
新しく知った作家「須賀しのぶ」をしばらく追ってみたいと思う。
(今回は備忘録にて、コメント欄は閉じてあります。)