ゆるい感じで。

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夜なのに眩しい。(ガウリナ/現代パラレル)

2018-01-27 19:05:58 | スレイヤーズ二次創作
ぷらいべったーより再掲。
お祭り。夜店を冷やかす高校生二人。

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 甘い匂いがする。それに、ソースの匂いも。
 もわりと籠る蒸し暑い空気に、少し歩けば誰かとぶつかってしまいそうな人混み。――そんな中をリナと二人で歩くのは、今日が初めてだった。

「ガウリイ、あんず飴あった、あんず飴!」
 目をきらきらさせて、オレを振り返るリナの顔が熱気と興奮でか少し上気している。オレはそんなリナを見るのが楽しくて、ただそんな彼女に促されるままに歩く。
 初めて見る浴衣姿。結いあげた髪には小さな花の髪飾りが付いている。横から、後ろから見るだけでもなんだか眩しいのに、そんな彼女が何かを見つける度に振り向いてオレを呼ぶから、その度にオレはどきりとするのだ。

「あんず飴、ガウリイも買う?」
「うーん、オレはいいや」
 既にチョコバナナもかき氷も食べている。甘い物はもう間に合っていた。
「そっか。じゃ、買ってくるからちょっと待ってて」
 そう言って、リナは小走りに駆けだしていく。そんなリナの背中を見送りながら、オレは妙にそわそわした気持を持て余している。空を見上げたら、さっきまでオレンジ色だった空は完全に夜の色に染まっていた。
 花火の時間までは、あと30分。

「お待たせ」
 あんず飴を手に、満足気に戻ってきたリナの笑顔は、いつも教室で見る笑顔と同じはずなのに、なんで今日はこんなに眩しいのだろう。
 ――どうしちまったのかな、オレ。
「ガウリイ、あとなんかやりたいことある?」
「あー、たこ焼き食いたい。あと、焼きそば」
 甘い物だけでは、やはり腹は満たされない。さっきから、色んな所でソースの匂いが充満しているし。
「食べ物ばっかりじゃない」
「それ、お前さんが言うかあ?」
 既にベビーカステラも綿あめも食べているリナにジト目で返せば、リナはむっとした顔でオレの腕をちょっとつねった。
「あたしはさっき射的やりましたあ~」
「はいはい。……あ、それじゃあクジ!」
 たまたま目に留った屋台ののれんには、大きく『くじびき』と書いてあった。
「ええー、やめときなさいよ。大したもの当たらないわよ」
 目立つ所に積まれているゲーム機やら、大型液晶テレビの看板。どこまでが本当に当たるのか分からない、とばかりにリナは胡散臭そうにそれらを眺める。
「まあまあ、ここはちょっと夢を買うってことで……」
 笑って、オレは屋台へと足を運んだ。

「はい、じゃあ500円ね」
 言われるままに小銭入れから小銭を一枚、屋台のおやじさんに渡す。差し出された箱から、紙きれを一枚取り出して。
「はい、残念賞」
「……」
 なんとなく、そんな予感はしたけれど。何か良い物があたるんじゃないか、という淡い期待はあっさり破れてがっくりする。
「そこの緑のカゴから好きなの一個持ってっていいから」
 指差された先には、ゴムのボールやら、玩具で出来た剣やらが無造作に放られていた。さてどうするか。考えていたら、カゴの底の方に何やら光るモノが目についた。
 ――……。
「おやじさん、じゃあ、これ」
「おう、持ってきな!」
 オレが手にしたそれを見て、おやじさんは威勢の良い声とサムズアップをオレに贈ってくれた。少し、面白がっているような顔で。
 たぶんきっと元は500円もしないであろうそれを、オレはジーンズのポケットに突っ込んだ。リナの元へと歩き出しながら、腕時計に視線を落とす。
 花火の時間まで、あと15分。

「ガウリイ、そろそろ花火始まっちゃう」
 いつの間にやら、リナは新しくピンク色のカチワリを買っていた。それを片手にぶら下げて、もう片方の手がオレの腕を引く。
「行くわよ」
 ――アメリア達が、花火が良く見えそうなとこ見つけたって。
 そう言いながら、人の波を掻き分けて歩く。何気なく掴まれた腕の辺りが、妙に熱くてどきどきする。
「あのさ……」
「――あ、焼きそば。ガウリイ、買ってく?」
「え、いや、いいや」
 ふるふると首を横に振れば、リナは小さく首を傾げた。
「いいの?」
「ああ。どうせ、花火見た後でも食べれるだろ」 
 それよりも。
 オレの腕を掴んだリナの手。その指先が、淡くピンク色に染まっている事に、オレはこのときようやく気付いた。
 そんなオレの視線に何を思ったのか、リナが慌てたようにぱっとオレの腕から手を離した。
「あ、その……えっと」
 さっきまで平気な顔でオレの腕を引いていたのに、今になって顔を赤くするリナに、オレはちょっとおかしくなった。
 ――なんだ。妙に浮ついてたのは、オレだけじゃなかったのか。
「ごめん。やだった?」
 恐る恐る、そんな事を聞いて来るリナにオレはまた首を振って、笑う。
「そんなことない」
 今度は並んで歩き出しながら、少しずつ人の波から離れて行く。オレはポケットからさっき引き当てたくじの景品を取り出した。
「リナ、あのさ」
「なに?」
「……これ。さっきくじで当てたんだ」
 手の平に置いた、プラスチックで出来た安っぽい指輪。夜店の灯りを反射する赤い石は、たぶんガラス玉。
「リナにやる。明日になったら捨てても良いから、今夜だけ、つけててくれよ」
 そう言って渡す。
 今夜だけ、その浴衣姿に、オレからの贈り物を付け足させて欲しい。

「……捨てたりなんか、しないわよ」
 しばらくしてから、それだけぼそりと呟いたリナは。受け取ったそれをぎゅっと握って、うつむいたつむじまで真っ赤だった。
 花火が始まるまで、あと……――もう、いつでもいいや。

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